原田泰+東京財団『TPPでさらに強くなる日本』

 TPPの経済的成果を具体的なデータや経済学の則った議論で解説した見通しのいい本です。ともかくTPPは、反市場バイアスや政治的な思惑などで、非常に議論しづらい環境になっていて、特に素人議論(思い込みと断定)の温床ともなっています。原田さんたちのこの本では、まずTPP議論の混乱を整理していて、どこに論点があるのかを明確に整理している点がすぐれているでしょう。

 面白いと思った点は、

第1章では、米国内でのTPPへの取り組みを、議会と大統領の対立など「貿易促進権限」の行方や、また米国内の既得権を考察している箇所が面白いですね。
第2章では、いわゆる「毒素条項」の詳細な検討が行われていて、いかに「毒素条項」をめぐる議論が思い込みと断定で混乱しているかがわかります。
第3章は、日本の農業問題についての分析、第四章では、弱いといわれている日本の交渉力についての分析が行われていてそれぞれ僕にはとても参考になります。

 白洲次郎の英雄視とかは、僕も常々、城山三郎伝説の次くらいに不可思議な戦後日本の神話だと思っていて、テレビドラマ(笑)をみたときも、どこがそんなにエライのかわからなかっただけに、この本にでてくる白洲次郎ネタも面白く読めました。

「日本人は交渉下手といわれるが、これまでの日本の交渉をみて見れば、必ずしもそうではない。また、損をしたときは、政治の大局観が誤った場合である。むやみな公共投資の拡大、円安と輸出増加は悪を思い込んだことは日本の国益を損なったが、それは外交下手とは何の関係もない」

 最終章は、日本の縦割り行政(各省庁ごろの利権もろ出)のTPPの経済効果がでていて、農水省の試算のように過大な損失はオーバーであり、また内閣府の試算の損失は過小すぎるとして、理性な推定を試みています。もちろんそれぞれの経済損失を上回る経済効果があるというのが本書のメッセージです。

TPPでさらに強くなる日本

TPPでさらに強くなる日本