G20の場でベッセント米財務長官が植田日銀総裁と会談し、このひと月近くベッセント氏が米国メディアで発言してきたように、日本の金融政策に「特に」注文をつけたいのが明らかになっている。会談の直前にはロイターのインタビューでは、
https://jp.reuters.com/opinion/AHP3EPARKVNYVHV47VWACRJJSU-2026-08-30/
ロイターの記事では、日銀に利上げを求めるとはしないとしながら、アベノミクスの終焉を明言し、また「タカイチノミクス」には株主志向の労働市場の規制緩和を成果として述べている。この高市政権の経済政策の評価はオールドファッションであり、いまの高市政権の政策を十分に追っていない印象だ*1。あくまでも金融政策に主たる関心があるようだ。
まず米財務省のホームページから公式のステイトメントをみておく。
READOUT: Secretary of the Treasury Scott Bessent's Meeting with Bank of Japan Governor Kazuo Ueda | U.S. Department of the Treasury
2026年8月30日
ノースカロライナ州アッシュビル — 8月30日(日曜日)、スコット・ベッセント財務長官は、ノースカロライナ州アッシュビルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議の傍らで、日本銀行の植田和男総裁と会談を行いました。
ベッセント長官は植田総裁の会議参加を歓迎し、共有するマクロ経済の優先課題について日米が緊密に連携することの重要性を強調しました。
長官は、インフレ期待を安定させ(アンカーし)、為替相場の過度な変動を避けるために、金融政策の適切な策定と発信が極めて重要であると指摘しました。
さらにベッセント長官は、円の実質的な過小評価に対処するための日本の断固たる市場および金融政策措置に対し強い支持を表明するとともに、円安が日本の国内インフレ圧力に寄与している側面に言及しました。
他国の経済政策の責任者が、日本の金融政策を直接に評価することは極めて異例である。このベッセント発言は日本のマスコミも注目することになった。特に普段から日銀の利上げ方針を支持し、他方で国債利回りを高市政権の財政政策への事実上の批判に利用しているメディアや識者はこのベッセント発言を援用して、持論を強化しているようだ。もちろんこれは日銀の利上げ路線と呼応するものと受け取ることが可能だ。ストラテジストの嶋津洋樹さんがXで指摘しているが、まさに「ご宣託」のように受け取る「専門家」も多い。
ベッセント氏、円安阻止へ「断固たる金融政策を支持」 日銀総裁に伝達 - 日本経済新聞
日本政府が日銀の金融政策に協調を明示的に呼びかけるだけで、「日銀の独立性」と大騒ぎで批判する一方で、米国の声はまさに「ご宣託」扱いである。マスコミや「専門家」たちの姿勢には大きな疑問を抱く。
日本の金融政策は国内経済の状況をみて判断するべきであり、他国との関係に重きを置くべきではない。この点はエコノミストの片岡剛士さんが正しく指摘している。
いまはベッセント氏のここしばらくの日本への姿勢に理解を示している浜田宏一先生の『国際金融の政治経済学』にも類似した視点が書かれている。
「他方,変動為替制度の下においては,利子率の水準に関する第二次的な政策の対立を除いて考えれば,各国は自らの貨幣政策を用いて,より自由に国民所得水準の政策目標を達成できることが明らかとなった.すなわち,変動為替制度は,少なくとも自分の国の政策目標は自国で最低限度達成できるという意味で,各国が相手国の金融政策に制約されない,つまり金融政策の独立性を保持する制度である.このように,変動為替制度は最悪の事態を各国が自ら回避できるという性格を持っている.したがって,第一段階のゲーム,制度選択のゲームにおいて変動為替制度を選択することは,各国が一種のマックス・ミニ戦略を採用することにほかならないということができる.」(同書、89頁)。
これは浜田先生版のマンデルの三角形の議論ともいえるが、変動為替相場制では、日本と米国はそれぞれも自らの国民所得水準を政策目標にすることができる政策の自律性を述べている。まさに片岡さんの指摘の通りに、われわれは自国の経済状況をもとにして経済政策を行える環境にあるわけである。
この浜田先生の本では上記の引用にも一部入っているが、副次的な他国との対立をふたつ示唆している。ひとつは、自国が金融緩和を行えば一時的に他国には近隣窮乏化が発生することだ。もう一つは、自国と他国では経済状況が違うのでそれぞれ最適な利子率が異なることである。このふたつの副次的な作用がいまはなぜか本筋であるそれぞれの国の国民所得の水準よりも重視されているといえよう。それはあまり賢明なことではない。
副次的な点の一時的な近隣窮乏化効果については、高橋洋一さんが指摘している。
さらに第二の点、日本と米国の金利が異なることで、政治的な葛藤が生じるという副次効果についても今まさに話題になっている。繰り返すが、このふたつの効果は副次的なもので、それを持ち出して主因の効果をなおざりにするのは極めて愚かしい。
いずれにせよ、この利子率(国債の長期利回りなど)については、日本のマスコミでは高市政権の財政政策によるものだとしている。これはおかしい。基本的には、国債金利は米国を主導して、日本を含めた多くの国の共通現象である。またそもそも日銀が利上げスタンスをもっていれば長期金利は政策金利に影響されるので上がって当然でもある。いずれにせよ、この点については金子洋一さんが適切に解説している。
また高市早苗総理はこの長期金利の上昇について以下のように発言している。
https://x.com/kantei/status/2094752648167886899
(記者)
日本の長期金利を巡り、10年物の国債の利回りが、30年ぶりに一時3%まで上昇しましたが受け止めをお願いします。
また長期金利の上昇で国債費が膨張し、政府が政策に予算を使う余地が狭まると見られますが、食料品の消費減税など、高市政権の「責任ある積極財政」で掲げる政策にどのように影響が及ぶと認識していますでしょうか。市場への信認をどのように確保していくのか教えてください。
(高市総理)
金利につきましては、諸外国の政策の状況も含めて様々な要因を背景に市場において決まるものです。内閣総理大臣として、この市場の動向について具体的にコメントをすることは、市場に不測の影響を及ぼすことになりますので行いません。
この予算編成を含めた経済財政運営にあたりましては、金利などの動向を含め、様々な経済状況を評価、分析しながら適時適切に判断していくというのは当然のことでございます。
その上で先般、閣議決定いたしました骨太方針に沿って、恒常的な施策についてはこの大型の補正予算に頼るのではなく、これまでの方法とは違って、当初予算でしっかりと措置をする、という予算編成改革を高市内閣で大胆に進めてまいります。
こうした取組によりまして、必要な財政需要にも適切に対応し、強い経済と財政の持続可能性の両立をしっかりと実現してまいります。お疲れ様でした。
これはマスコミの煽る金利の上昇にはまったく組しないという姿勢である。またさらに「必要な財政需要」に適切対応というのは「責任ある積極財政」をゆらぐことなく追及するということでもある。
なお日本の財政状況については、田村修一さんの以下の論説も参考にすべきである。
国内の雇用や所得環境を犠牲にしてまで、外圧や投機的な金利変動に振り回される必要はない。いま求められているのは、他国の「ご宣託」に右往左往することなく、自国の実体経済の動向とインフレ率に愚直に向き合う金融・財政運営である。