リフレ・レジームは揺らいでいるか?

 一昨日くらいから断続的にTwitterで書いたものを列挙しました。

「黒田総裁の信頼性崩壊」BY LARS CHRISTENSEN http://dlvr.it/3WDfKvを読んで。

 クリステンセンの指摘は、今回の株価の乱高下を、クルーグマンがそもそも指摘したリフレ・レジームの動揺に求める。理由は以下の三点。

1)甘利経産相の発言「長期金利が上昇しないようにするには国債への信認を高めることだ」が投資家たちに日本の金融政策の方向性を疑わせた
2)日銀の5月議事録から甘利発言と同じ趣旨の発言をする委員が大勢いた。これは日銀内部でインフレ目標の意義についての意見統一がないことを市場に伝えた。以下はクリステンセンの道草による訳文から。
 「言い換えると、一部の日銀委員は債券利回りの上昇を抑えたい、つまりは甘利大臣の懸念に対応する考えを持っているということだ。これを行うにはたった1つの方法しか存在しない。つまり、2年以内に2%のインフレを達成するというコミットメントを放棄することだ。インフレの上昇と債券利回りの不変というは明らかに同時には成立しない。黒田総裁が当初インフレ期待を押し上げるのに成功したからこそ、日本の債券利回りは上昇していた。そうした単純な話だ。」

*「債券利回り不変」を僕はしばしば冗談めかして「国債利回り永久凍土主義」と形容している。

3)さらに6月の決定会合の黒田総裁の記者会見は日銀の立ち位置を不明瞭にし、それがさらに株価の急減をもたらした

 3つの観点で最初の2つまでは意見同じ。まず甘利発言については、彼の反リフレ的発言に、僕らは(同じ趣旨をしばしば伝える麻生財務省とともに)慣れ過ぎて鈍感化していたが、一連のその種の発言(国債名目金利上昇を懸念)があったことは確かである。さらに二番目はまつたく同意。僕もこのとき(5月の方だが)の総裁記者会見について、新御用学者として初めて批判をここで口にしたのは皆さんも目撃したはず。

 しかも僕の怒りには経験的前提あり。クリステンセンはもちろん経験したことがないだろうが、この国債利回り永久凍土主義の使徒たる記者たちに「取材」をうけたことがある。そのとき彼らは明らかにふたつの意図をもってた。この二つの意図のうちひとつはここで書くのは控える。トークイベントでいうかもだが。ひとつは明らかに国債利回り永久凍土主義の策謀が日銀内で始まっているシグナルだった。

 その「策謀」にまんまと総裁が嵌ったように思えた。それに前後して、政府からは増税モードや、まったくダメな成長戦略が噴出。緊縮モードのメッセージとなりレジーム転換を揺るがす。3点目の論点については一昨日の政策決定については、総裁の信頼性の失墜とはいえないと思う。まだきわめて不十分だが、国債利回り永久凍土主義へのアクセルは回避できた。一昨日(金融政策決定会合の日)の日銀の決定はリフレ→反リフレへの傾斜→リフレというような感じで市場に不信を与えたのは確かだ。それの代償は、僕のおおざっぱな一昨日(金融政策決定会合の日)の発言「今週は1000円くらい落ちる」につながる。だが仕切り直しだともいえる。

 しかし払った代償は大きい。これ以上拡大しないためには、何度も何度も指摘しているように、日銀は繰り返し今後もインフレ目標(=リフレ政策)の意義を強調し、期待インフレ率の上昇にコミットする発言をすべてのチャンネル、新しいチャンネも創造しフル回転すべきだ。アイディアはすでにあるはずだ。例えば日銀のHPにリアルタイムの期待インフレ率の指標を構築すること(BEIだと感応度が大きすぎるので修正する必要がある:キプロスもイタリアのときも大きくふれすぎ。それが今回BEIだけみて追加緩和だ、と単純バカのようにいえない理由だ。昨日書いた)他には国債保有行への個別「相談」等だ。

 いまふりかえると4月から旧日銀的なるものの猛攻が始まっていたのがわかる。特にこれは自分的に失敗だったと思うのは、あまりに日本的な左派や日本リベラル的な物言いを意識しすぎて、雇用や経済格差に意識をとられてしまったのがまずかった。すでに4月に接触してきた旧日銀どっぷりのメディアの連中から「策謀」の方向性を自分でも感じていながらそれを喧伝しなかった。関心が主に雇用・経済格差などにいってしまい、自分でもかなり以前から「国債利回りの0.01%の上昇も許さない」そういう風潮を1月くらいからブログなどでも延々と書いていたのに、それをもっと全面展開し、具体的な「策謀」を正面切って論じなかったのは甘すぎた。つうか去年の8月から延々と書いてるか(笑)。https://twitter.com/hidetomitanakastatus/233066933585596416

 簡単にいうと雑魚キャラ(=株価が上がるのは一部の金持ちが儲かるからとか、リフレすると経済格差がひらき乗り遅れるものがでる等)に気をとられるぎてた。この種の雑魚キャラは単に言ってる本人の中高生レベルの知識の欠如かルサンチマンの表れ。ところが長期金利0.01%“暴騰”説は実利からむ。

 今後もメディアの一部(典型的には朝日新聞社の日銀担当ら)や、また銀行、国債取引関係者そしてネットでこれら関係者的な発言などには要注意しないと。しゃれにならない金額がからんでるので、これらの人たちの行動は“まじだ”。日本経済なんてどうでもよく(記者たちはさておき)自分の利害優先だ。あとクルーグマンのレジームが揺らいでるんじゃね?仮説は、本人がそれを書いたときも、具体的な中身が薄く、いわば野生の勘みたいなものだったのでのれなかったし、リフレ派の中でも固定資金オペを当初はそんなに問題視していなかった風情がある(嶋中さんのレポートなど)。これも僕含めて甘い。

 かろうじて、この前6月の政策決定会合の前に、「固定資金オペの拡充」に胡散臭さと危険性を感じた、高橋洋一さんやあと不肖僕なんかが「拡充」反対と現状維持でもむしろウェルカム(リフレレジームを確認することが優先。これをないがしろに追加緩和しても効果乏しいので)を表明した程度だった。僕の場合は、クルーグマンの仮説を真剣にうけとめたのは、Baatarismさんの発言がきっかけ。長期金利自由自在コントロール(=国債金利永久凍土主義=現状の低金利のままいくこと)を、インタゲの実現放棄をせまるものと認識していたがその勢力が日銀の中で猛烈に拡大していることに気が付いた。その日銀の中の旧日銀的なものの勢力はどこを起点にしているかというとやはりヒントは当初の“日銀内部テロ”といわれた例の出来事やそれに関連する例の人物のラインで考えるのが正解でしょう。また近時、中曽副総裁、雨宮理事の名目金利抑制発言が頻繁に話題になったのも当然見逃すべきではない。まさに出るべきところから出てきているわけだ。

 国債金利凍土主義を採用するものでないことを、日銀は強く表明する必要がある。昨日も書いたが、固定資金オペの「拡充」どころか、ステイトメントを工夫しての事実上の「骨抜き」「終了」が望ましい。付利の撤廃もやった方がいい。そして何度も何度もインフレ目標=期待インフレ率上昇政策を強調せよ。

合せて読むべきエントリー:6月の政策決定会合への評価http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20130611#p1