雑誌『POSSE』などで労働問題の相談にも長く経験と積んできた今野氏のブラック企業の実態とそれへの対処方法、そしてブラック企業を含む日本の雇用社会の改革を記した本である。ブラック企業の人を辞めさせる手法の洗練化と複雑化が具体的に書かれていて、特に企業内のカウンセリング手法を用いた悪質な人間の追い込みの実態は、まさに外道の様相であろう。またブラック企業のブラックな手法を補うブラック弁護士など「士族」の実態にも詳しい。
ブラック企業を生む背景としては、「代わりのいる若者」という新卒市場の問題であり、また非正規雇用の活用もあわさることで、単に景気がよくなればすむ問題ではない、という構造的な視点が優位になっている。実際にブラック企業は景気のいい悪いに関係なく存在する問題ではあるだろうが、毎度のことながら、今野氏の視点にはまったくマクロ経済の環境をよくするための政策はごそっと抜け落ちている。
それはさておき、一番本書で役立つのはブラック企業との「戦略的」な闘いを解説したところだろう。本書では労働法と団体交渉(個人加盟ユニオン)の活用を特に強調している。本書でも示唆されているが、いまの就職指導も自己分析重視のような空洞のような無意味なものから、労働法を教えたり、さまざまな働く場での身の守り方やサバイバル法を教えることを中核にしたほうがいいのではないか? いまの大学のキャリア教育は就職するためだけに傾斜しすぎている。もちろんこの問題意識はカリキュラムとしてキャリア教育に組み込むには一教員の判断を超えてしまう問題が発生しているのだが。
それにしても労働法の基礎知識は必修にすべきであろう。またカルト的な宗教の勧誘への対処、不法な購買勧誘への対処、ネットでのマナーやトラブルの対処(学生が匿名で誹謗中傷している行為の犯罪性の認識など)を教えるべきではないだろうか?
本書を読むといまの就職問題を考えるさまざまな側面を真剣に考えることになるだろう。
- 作者: 今野晴貴
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/11/19
- メディア: 新書
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