海老原嗣生『ずっと働きたい「従業員300人以下」の会社選び』

 献本いただきました。どうもありがとうございます。まず海老原さんの就職市場の構造的不況という考えはただの間違いです。彼は何度もこのことを書いていますのではっきりいいますが、この手の就職市場分析はいまの長期停滞を構造的なものと読み変えているのに等しく到底、実証に耐えられるものではありません。単なる大学生が多くなったことと、非正規雇用の増加という事実もデータを並べただけでは何もいっていないのに等しいです。いいかげんにこの主張はやめられたほうがいいでしょう。(7月27日注記:この部分についてはコメント欄での海老原さんと田中のやりとり、27日のエントリーをぜひ参照のこと)
 私の主張は多くの著作にかいてあるので改めてここで書く必要はないでしょうが、あえていえば『構造改革論の誤解』などをおススメします。そこでいまの労働市場の長期停滞が構造的要因ではないことが明らかにされています。問題は「大学生の増えすぎ」ではなく、長期停滞をもたらす金融政策の失敗が、学生たちの就職状況も悪化させているからです。もし海老原さんがまだ自説にこだわるようであればこれから持続的に批判していく所存です。また金融政策の失敗ではない、と主張されるのであればどうぞその根拠を示して下さい。非正規雇用増加も雇用コスト(=実質賃金の高止まり=デフレ期待の定着)が主因で、これも15年前も今もです。

 あと大学の就職関連の改革ですが、これも実際には多くの大学で多かれ少なかれとりいれられていることなので目新しさはないです。

 以上、批判的なことを書きましたが本書は中小企業のガイドとして役にたつこともあるでしょう。各企業の具体的なエピソード、その業界の話などは面白く、本書が僕からみると余計な就職市場改革やマクロ経済関連などを抜かせば、おそらくいい本にちがいないことを示す箇所かと思います。このような中小企業ガイドがもっとほしいところです。

中小企業ミシュラン《2012年版》 ずっと働きたい「従業員300人以下」の会社選び

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マクロ経済的な見方は代替的だが、中小企業などの見方については補完的なもの

偏差値40から良い会社に入る方法

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