沢田健太『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動』

 拙著『偏差値40から良い会社に入る方法』というのはある意味で孤独な本だな、と思っていた。偏差値40台の圧倒的多くの私大の就職市場の様子を自分なりにおそらく日本で初めてその一端を赤裸々に書きとめたつもりだったが、一部の理解以外はなかなか受け入れられなかった。もちろん就職に無関心な教職員やおそらく就職活動をまともにしたことがないか、実情に疎い人たちからの誹謗中傷が大半だったのだが。

 しかし本書を読んで、まず拙著との共通する理解や事実認識が多く非常にうれしくなった。自分の理解や事実の把握がそれほど間違っていなかったことがわかる。こういう人と仕事ができたら僕は嬉しいな、と思える本だ。

 まえがきにこうある。これは学内よりもネット(ブログやTwitterなどで)多くみられる現象だが。

「問題だらけなのに「キャリア教育」という言葉ばかりが急ぎ足で、独り歩きしていく先を私はとても心配している。就活・採活コンサルタントのような、あやしげな業者がキャンパス内で跳梁跋扈しているのはヤバいと感じる」。

 不況の長期化などを背景にしてキャリアセンター(昔の就職課と同じなようで違う、という著者の認識もツボをついてる 笑)でも日々そのような会社からの営業活動がきている。有益な学生向けのセミナーをやる(例えば数年前にはまったく手薄だった留学生向けの就職説明)というのでやらせたら、経験の薄い若手の社員がマニュアル(ほぼ官公庁のHP記載のデータ)を読みあげ、あとはひたすら自社のサイトの営業をするということもあった。うっかりすると大学も学生も食い物になる。

 最近では、本書でも指摘があるように「中小企業をうけろ」ブームだ。これは僕の本にもすすめているが、もちろん他方でこれがあまりにも過大な期待をうけているのも問題だ。本書でも丁寧に説明されているが、中小企業を受験する側と採用する側双方の取引コストを無視すべきではない。学生もどんな企業が存在するのかサーチコストが大きく、他方で中小企業も同様なのだ。中小企業は歩留まりが悪いといってもいい。採用数が過小なのに、応募者がそこそこ多く、そして結局、受ける方からすれば大企業と同じくらいの内定までの時間とコストが伴うことも忘れてはいけない。

 本書は本当に具体的で、大学の就職体制そのものを客観的に分析し、それに加えて就職に関する著者の価値判断を明示し、説得的に論述していて、何度も書くが読んでいて熱い感動を覚えた。ああ、同じ苦労をしている人がいる、という思いである。

 ところで僕はいま初めて大学一年用のキャリア教育の半期の授業をうけているのだが、本書のあるようにその教育は非常に難しい。ひたすら作文を書かせるとか漢字や基本数学を学ばせているのだが、まだこの一年生向けのは試行錯誤の繰り返しである。既存の一年生向きと称する就職本を使っているがどうも使い勝手が悪い。結局は過大な自己分析本の類でしかないからだ。

 本書の著者がより具体的な初年度向けの就職指導本を書いてくれないか、という気持ちを持っている。むしろ一年生は早すぎる、というのでもいい。実際に僕がやっていることも就職というよりも基礎学習や人間や社会への関心を誘発したい、ということだけだから。

 長々と自分のことを書き過ぎたがw 本書はともかく就職に関心のある人はぜひ一読するべきだ。できれば拙著と一緒に 笑。就職に対する見方が大きく変わるだろう。

大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動 (SB新書)

大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動 (SB新書)