安達誠司『ユーロの正体』

 出版社は違うけど、安達さんの「正体」シリーズ第二弾です。本書のテーマは「ユーロの日本化」を解き明かし、今後の展望を解説することです。

 「ユーロの日本化」とは何か? 「ユーロ危機を財政危機ととらえ、例外なき緊縮財政で危機を乗り切ろうとする、ドイツを中心としたユーロ圏の政府首脳の見立ては明確に誤りであり、危機に陥っている国に対し、これ以上緊縮財政を強いれば、その国の経済はますます疲弊し、次なる経済危機が到来する可能性が高い」ということである。

 まさに日本経済の危機を財政危機や構造問題として錯誤して理解し、財政再建などで対応し続け、金融政策の在り方を見直さずに停滞を続けている日本そのものである。なお僕もユーロ圏の長期停滞派であり、その見解については直近ではこの日経CNBCとニコ動の特別番組でも安達さんと同じ見解を申し述べた(いまは動画がみれないのが残念)。

 直近の最大の懸念は、いままでの中途半端だとはいえ、ユーロ危機の「救済」の要になっていたドイツ経済の大きなかげりがみえることだ、と安達さんは指摘している。

 ユーロ危機→ユーロ安→ドイツの対中国対アジア向け輸出拡大→ドイツの貿易黒字拡大→「この貿易黒字の余力内での救済」

という構図が、中国経済の減速で不安定化し、さらにドイツの輸出の6割を占める対ユーロ圏内の輸出が激減していることで危機にさらされている。またこのドイツ経済の減速シグナルが本格化し、さらにアジア経済圏から欧州の金融機関の資金が引き上げられると、中国をはじめとしたアジア経済圏に危機的状況が訪れるのではないか、というのが本書の最大の警告である。そしてこの危機的な状況は、幾度となく形を変えながら、ずるずるとユーロ圏の長期停滞(=ユーロの日本化)が継続するかぎりまた繰り返すだろう。

 全6章とエピローグは上記の見取り図を詳細に解説し、またユーロ圏だけではなく国際通貨制度と国際金融のメカニズムや簡単明快な理論を説明している。安達さんの相変わらずの明晰な文章は読みやすい。

 

ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める (幻冬舎新書)

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