寺尾紗穂『原発労働者』

 かなり期待して読んだのだ。原発で作業にあたる人たちがどのような雇用環境なのか、マンガの『いちえふ』などで描かれていたが、こちらは3.11以前にも焦点をあてて数名の原発作業員の方々にインタビューをして、それをもとに著者の視点をまじえて構成している。

 著者の問題意識(原発労働者の実態を知らないのは電力消費者として倫理的な意味でもおかしい)とその調査努力には一定の敬意を表したい。また書籍の内容も興味深い事実が多い。ただ著者の視点には、「経済的効率性」や「コストベネフイット」などを悪役にする傾向があり、その一方で、本書の後半では「経済不効率性」として東電の独占的な経営を批判してもいるなど、一定しない。むしろ経済的なものをすべて原発労働者の陥る悲惨な状況の原因にしているようで、少しその点は考えを深めてほしいと思った。村上春樹氏の原発問題への視点もそうだが、経済的効率性のとらえ方が僕からみると非常に偏っているように思える。むしろ経済的効率性「さえも」なおざりにしているから、原発労働者に過大なリスクが発生してしまっているともいえるのではないか?

 ともあれ貴重な貢献である。ただし低線量被ばくの問題もあまりに現状の科学判断を超えたものとする解釈に傾斜しているように思えてならない。また問題は繰り返すが著者の視点にもう一段の経済的な論理性があればなおよかったのではないかと思った。

原発労働者 (講談社現代新書)

原発労働者 (講談社現代新書)