坂倉昇平『AKB489とブラック企業』

 私見では『POSSE』の編集は「ネグレクト編集」というべき方針に立脚していると常々思っている。それは経済問題でいえば、マクロ経済政策の雇用問題との関連の無視(しかも共産党的というか党派的な金融政策への敵視・無視)で形成されている。そして本書もそのような「ネグレクト編集」が色濃い。もちろん編集者はイーストプレスの編集者なので、ここでの意味は著者の姿勢だ。まずアイドル市場についての客観的な分析がまったく不在だ(先行する業績への無視も甚だしい)。AKB48を経済・社会的に考察した諸文献はほぼ無視されている。しかもその無視は、本書で随所ででてきている論点と関連がある。物語消費、90年代、ゼロ年代の人々の生きる姿勢、恋するフォーチュンクッキーに対する分析などでも多くの論者が、本書の分析と類似したものを先行して提起している。それらに対する参照が「ネグレクト」されている。ネグレクトこそ日本のブラック企業にみて見ぬふりする風土の特徴だ。著者には本書で展開したことを他のアイドル評論や分析しているものたちの前で切磋琢磨することを期待する。これではあまりにひどい。

AKB48とブラック企業 (イースト新書)

AKB48とブラック企業 (イースト新書)