海老原嗣生『2社で迷ったらぜひ、5社に落ちたら絶対読むべき就活本』

 就職の人気ランキングや自分の先輩・知人のいっている企業「だけ」に固執して就職を始めた学生が陥る「虚無のサイクル」をどう救済するか、著者のケーススタディはよくありがちな学生の就職パターンから始まる。この人気ランキングをテレビなど様々な機会でわりと見かける企業や、生活圏でみかける企業だとかに置き換えても大差ない「虚無のサイクル」を生み出しやすい。僕自身が考える「虚無のサイクル」からの離脱方法の一例は拙著にも書いたが、もちろん他にも多様な戦略があるにちがいない。本書はそのひとつの処方箋を具体的に提示している。

 かなり普遍的で当たり前な真理なのだが、見落とされがちな事実を著者は前半で指摘している。
「半径5メートルが良好なら、多少仕事がきつくても、給料が安くても、手に職がなかんかつかなくても、会社を辞める人は非常に少ない」。
 これは誰しも思いつく真理だが、なかなか就職活動本にはでてこない視点であり貴重だ。

 本書の前半では、5つの視点から企業研究をする際のコツを提供している。これは日本型雇用システム論ともいえる内容となっていて興味深い。もちろん著者も明言しているが、僕たち就職支援やコンサルにかかわる人たちが本当に知っている企業などごくごく一部であり、その知っているという深度もさまざまである。なので、会社研究というものに完全を求めてはいけない。すべては参考事例にすぎないとの割り切りも必要である。だが、企業研究をなおざりにすれば就職活動自体は著しい苦境に陥るのも真実である。難しい問題で簡単に答えはでないと思う。

 本書は後半は銀行、MR、保険会社、メーカー、中小企業、著者自身の仕事であるコンサルタント業務など、その入社後のリアルを、やはり日本型雇用システム論的観点から丁寧に解説している。これらの記述は就職活動の参考に十分になるだろう。もちろん直観的な表現が多様されているし、厳密ではない。しかし上にも書いたが所詮、個々の企業が個々人にとってどのようなものであるかを厳密に究明するのは不可能なのだ。この点をわきまえておけば、この直観的(ただし随所に日本型雇用システム論が前提されているので客観性への担保もある)な説明は、学生や就職支援に携わる人にはかえって便利だろう。何も指針がない企業研究よりもはるかにいい。

 個人的には海老原氏の書いた本の中では最も好きな本である。