小林恭子・白井聡・塚越健司・津田大介・八田真行・浜野喬士・孫崎亨『日本人が知らないウィキリークス』

 本書は僕のようにウィキリークスについてまったく知識がない人に必要な情報を濃縮して提供してくれるとてもいい本だと思う。特に冒頭の塚越氏によるウィキリークスのいままでの活動やそのリーダージュリアン・アサンジについての来歴についての展望は、これだけ読むだけでもウィキリークスについてお腹満腹の情報を提供してくれる便利なものである。

 他の論説は正直、どこがウィキリークスに関係するのか? というものもあるのだが、新奇な話題であるだけにそれはやむをえないかもしれない。僕が塚越氏の展望以外で、じっくり読む気になったのは、八田氏のウィキリークスのリーク元の匿名性を担保する技術とそれを裏付ける思想を追った章である。これは塚越展望を補うものだ。他には津田氏の論説を読めば、この新書のウィキリークスとは何か、その今後の問題は何か、を知るには十分だと思う。

 しかしリークといえば、このブログでも何年も前から日本銀行のリーク問題が繰り返し話題にしている。この場合のリークは公益をもたらすよりも、ただ単に一部の利害を生み出し、公益を大きく損ねるものである。その点で「リーク」とは何か、本書では思想的な議論もあるにもかかわらず、その点の突き詰めはされてないように思うし、また経済関係でもこれだけ国会でもしばしば話題になる問題が完全に無視されているのは、単に著者たちの不勉強であろう。どの国でも中央銀行のリーク問題はしばしば議論され、たびたび問題として噴出している経済最重要の問題だからだ。要するに論者たちがこの問題に気が付きもしないのは、ウィキリークス問題を本当に自国の問題としてどこまで真剣に考えているのか、特に思想系の論者の感度の乏しさが気になる。

 とはいえ、これもまたないものねだりなんだろうか? 僕には正直そうは思えないのだけど、本書がいい本(少なくとも上にあげた論者たちの箇所は)であることは間違いない。

日本人が知らないウィキリークス (新書y)

日本人が知らないウィキリークス (新書y)