海老原嗣生『課長になったらクビにはならない』

海老原さんの日本型雇用システムの利点(企業のインサイダーは一定年齢以上で、よほど能力を低評価されていないかぎりリストラされない、管理職は転職できない=企業内特殊熟練ゆえ)に注目した、私見では海老原さんの著作の最高傑作だと思います。

あいかわらず各種の統計データを駆使して、通念や政策の場で言われていることを冷静に論駁しています。例えばワーキングプア1022万人の中味が実は大半が「主婦」であること。最低賃金改正は経営基盤の弱い企業を直撃する、また「同一価値労働同一賃金」の空理空論ぶりも指摘しています。

もちろん本書では日本型雇用システムの長所をあえてクローズアップする戦略を採用していて、むしろ日本型雇用システムの問題として指摘されてきた諸点は、その批判者たちの事実誤認による、という海老原さんの戦略はわかりやすいものです。僕も『日本型サラリーマンは復活する』で同様の戦略を採用したからです。もちろん僕の方が、日本型雇用システムがおかしいのではなく(というかもとから長所も問題も抱えている)マクロ政策がおかしい、という論の立て方で、海老原さんと差異があるわけです。

ですのでこの差異は、例えばリストラについても、僕は循環的な要因に注目しますが、海老原さんは「一般的な企業において、リストラが行われるのは、「意欲や能力の低いホンの一部の社員に対してのみ」だから、まじめに働き普通に能力アップしている人たちは、リストラの対象となることはない。そう、組織衛生のためなのだ」というところに現れると思います。

僕はもし不況期のリストラがこのような「組織衛生」効果を強くもつのであるならば、ここ20年でも日本の経済はかなり効率化を進めていたことでしょう。しかし残念ながらそのような証拠を海老原さんは提出はしていないと思います。あるいはそのような個々の企業の「組織衛生」効果を上回る、非「組織衛生」効果が生じているのかもしれません。そしてその点をみるには、海老原さんが次回から取り組むとしている日本型雇用システムの弱点あるいはそのシステムで保護されていない「外部」に注目することでなんらかの解が提起されるのかもしれませんね。

ちなみにその次回作もいただいているので 笑 たぶん明日読ませていただきます。