海老原嗣生さんとの対話―就職市場の変容と長期停滞ー

 このエントリーをうけての海老原嗣生さんのコメントと僕のコメント、特に前者の海老原さんの意見は重要だと思うのでここにエントリーもうけて掲載。

海老原嗣生 2011/07/25 13:02
田中さん。いつもありがとうございます。今回は、前半厳しい御批評。その部分に、私もお答をさせていただきますね。まず、金融政策の失敗、私は、7割方賛成しております(3割は理解不足のため)。稚拙な子供じみた言葉でしか言えないのですが、結局は、それが為替に反映されて、結果、日本の産業構造がめちゃくちゃになってしまった。私も何度か書いておりますが、80年代から現在までの日本社会の大きな変化は3つあり、そのうち一番大きなものが為替レートだと感じています。
金融は素人なので、もう少し卑近な言葉で語らせていただくと、要は円高で空洞化が進み、構造不況が起きた。この対策として、先生のおっしゃるリフレ施策は大変興味深いところだと存じております。
こうした問題を抱えた結果、高卒の就職はとんでもないものになってしまった。要は、空洞化により製造業は海外移転し、また、単純業務は単価切り下げが起きた。それ以前から崩壊寸前だった農業も完全にここ20年で、雇用吸収力を失っています。そう、高卒相応の仕事が(日本の無策により)なくなっていった。
ここが大きなポイントだと思っています。
だからどうなったか?高校を卒業しても就職できないから、大学に行く。ここなんです。
出発点は先生と同じ。そこからワンクッションあるのが私の考え方。高卒相応の仕事がなくなった。だから大学に行く。そうすると、問題の先送りであって、結局、大卒時点で問題が顕在化する。だから、今、問題が起きている。
大卒の就職問題は、ひとつは「景気」。もう一つは、「高卒の後始末」。この2つで大部分は説明できると考えます。そして、その両方とも、先生の御説が説く源流に通じるとも。
大学を増やしすぎたから問題が起きた、と私が短絡的に書いてしまうことで、けっこう批判を受けます。ちょっと議論を簡略化しすぎているので申し訳ないです。ここには気を付けますね。大学生が増えた←高卒就職が困難←工場の海外移転、農業の壊滅、単純労働の対価ダウン←為替。この図式をもっと前面に打ち出すように配慮します。
リフレについては大変興味深く、『構造改革論の誤解』を熟読してキャッチアップいたします。一度、膝づめで、ご講義いただければ幸甚に存じます(熱望)。

私と先生で多少考えが異なるかなぁという点は、マクロ経済的にいえば、「構造的失業」の部分に当たるでしょうか。
その昔(80年代)も、大卒者の過半は中堅・中小企業に就職しておりました。今は、大学が増えたことで、好景気の07年でも7割以上が中堅・中小企業に就職しております。景気が良くなって、大企業の採用が増えたとしても、大卒が増えすぎていることと合わせれば、やはり圧倒的多数が中堅中小に就職でしょう。ここ。大卒×中小企業という組み合わせには時間がかかる。だから、ここで交通整理ができず、構造的失業が起きてしまう。ここにも注力しないと、というわけです。

最後になりますが、私は、「日本の就職問題は、欧米型の雇用システムにすればすべて解決する」と力説する方々よりも、よほど「金融政策が悪い」という人の方が立場が近い、と感じています。

tanakahidetomi 2011/07/27 00:39
海老原さん、よくわかりました。まさに海老原さんと僕は同じ問題意識を共有し、基本レベルでの理解も同じかと思います。持続的に批判ではなく、持続的に応援します。ぜひこれから少しだけでいいですからこの見解をおっしゃっていただければ円高(これはデフレの別表現です)による就職状況の悪化という円高トレンドシンドロームが90年代から続いていることが就職市場をあいもかわらぬ20年間の低迷を繰り返し再生産していることになると思います。また大卒の構造的失業の増加というところですが、確かにこの部分では見解に差がありますが、むしろここは循環的な要因の悪化が長期的に続くと構造的にみえる部分が増大していくという効果はあると思います。いわゆる「履歴効果」というものがまずあげられます(これについては拙著『経済論戦の読み方』に書きました。もともとのアイディアはすでに『誤解』にあります)。高卒段階での就労の困難によって大卒市場にその就労の困難が事実上持ち越しされたときに、この種の履歴効果が発生する、一番の原因は、(もちろん景気悪化の長期化が前提ですが)大学生の就職のためのスキルやまた人的資本が損壊している状況が典型的でしょうね。わかりやすく書くと、高校のときの人的資本の水準よりも大卒で低下しているケースがまず考えられます。まさに就職教育だけではなく、教育そのものがムダであるか、または非効率的なものであった、ということが考えられます。さらにわかりやすくいうと、就職難のために大学にいったけれども大学での経験がすべてその人の生産性の向上に役立つどころかムダだったケースです。これは実証しなければいけないレベルですが、その可能性は(量的にどのくらいのレベルか分かりませんが経験的には)否定することは難しいかもしれません。悲しい現実ですが。海老原体系がわかりました。ともに頑張りましょう

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