高橋洋一『日本の大問題が面白いほど解ける本』

 高橋さんから頂戴しました。ありがとうございます。これはとても素晴らしい本ですね。いまの日本の経済問題をほぼすべて網羅しながらも、簡潔かつレベルを落とさずに説明しています。これを今日読んでいて、この種の本を高橋さんがあと何冊か書いてしまうと、もうそれだけで経済問題関係は大概ほかのはいらないような気さえしてきます。それだけこの本はいままでの高橋さんの著書の中でも難しい問題を名人級のレベルで解き明かしているのです。その手法のキーは、費用便益分析と、規範と実証の明瞭な分離、そして数字と法制度に明るいことです。さらにこれに各省庁や政治家たちの裏舞台を、やはり彼らの行動を費用便益分析(経済合理性)の観点から辛辣に記述していることにも特徴があります。

 ともかくネタのオンパレードなので、いま書いたような総花的な表現が精一杯なのですが、いくつか興味を魅かれた点を列挙していきましょう。

1 八ッ場ダムを費用便益分析で評価する。特定地域のための事業なので、レベニューボンドを用いて資金をファイナンスしていくやり方が恣意的な役人や政治家の介入を排除するにもいいのではないか。→本書後半では、さらにこの話題が道州制の導入の合理的な理由とともにさらに展開されてます。

2 無料化や上限2000円の高速料金の設定は、混雑や交通手段の歪んだ配分など非効率化を招く。

3 埋蔵金は、財務省は財政融資特別会計については国債償還に使うとする(それはそれでいい)、しかし他の特別会計については沈黙。国民が自由に使うべき。

4 民主党は政権移行チームをつくらなく、また予算のシーリングも無視、その結果、予算要求が膨張し、結果的にその処理を財務省に依存。

5 そしてここは個人的にも共感したのですが、高橋さん自身がハローワークにいったときに失業手当の交付がとても面倒でまた「おカネをあげる」という官僚的態度に終始していたこと。これは僕も職安時代に体験したものとほとんど変わりません。高橋さんは市場化テストをして民営化や、また国から地方に運営を移すことなどを提言しています。

6 日銀は貸出債権を買い取るなど積極的な緩和政策をまったく行わず、むしろ政府がデフレ宣言をした後にCP購入をやめるなどちぐはぐした政策に終始している。

7 04年の財務省の為替介入は、日銀の量的緩和の拡張のための呼び水。この間、日本にきたジョン・E・テーラーの発言は、日銀の量的緩和が効果があったということで評価すべき。なぜなら日銀はいまも量的緩和の効果を否定しているから。

8 なぜ日本は不用な膨大な外貨準備を保有しているのか? 合理的な説明が不可能

9 斎藤次郎氏はいまも閨閥などを通じて財務省の隠然たる力

10 郵政民営化の旧来への先祖がえりというか先祖悪化みたいな話は、直近の高橋さんの見解とともにまた改めてエントリーしたいと思いました。

11 日本の財政問題は、日本だけしか通じない「新規国債発行額」「国債依存度」など意義の乏しいものばかりが喧伝され、それで国民の不安をあおっているだけ。むしろ世界標準なプライマリーバランスに注目すべき。プライマリーバランスについては高橋さんの韓明な説明をぜひ読んでください。

12 名目成長率4%であれば日本は「財政破綻」しない。また「財政破綻」の定義もしっかりする必要あり。しかし増税を目指す財務省増税派は、あえて国際標準からは異様に低い名目成長率を目標にしていて、それを自民党の与党時代、現民主党も採用している。これは名目成長率が低いほど税収が伸びないので、「増税」の論理がいいやすい。しかし小泉政権時代には名目経済成長率が改善し税収が改善したこと財政問題が緩和したことを忘れてはいけない。

高橋さんの今度の本の特徴は、再分配政策、そして税制度との関連を、非常にシンプルに説明してくれたことにあると思います。僕も頭の整理がついて便利でした。例えば、

続く

日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)

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