経済学の異端と反経済学の意味

 今回の『経済セミナー増刊総力ガイド! これからの経済学 マルクス、ピケティ、その先へ』(日本評論社)は経済学の入門ガイド的な側面が強いので個人的には実はさほど役にたつものがなかった(入門者向きということ)。
 その中では冒頭の岩井・橋本・若田部対談は刺激的な内容だった。また個人的に益するところ大なのが、佐藤方宣「「経済学批判」はどのような歴史的系譜をもつのか:異端派と反経済学の展開」は非常に役に立った。

 まず経済学の発展には経済学批判、しかもスジのいい「経済学批判」が必要である、その批判の結果、経済学自体が変容する可能性をみすえたとてもいい展望である。特に「経済学批判」の流れを異端と反経済学のふたつに分類して見通しをよくした点がすぐれている。

 異端の経済学の経済学批判とは、「経済活動における「制度」の重要性が強調され、その歴史的な動態をも視野に入れる必要性が説かれている」ことだ。具体的にはドイツ歴史学派、アメリカのコモンズらの貢献、カール・ポランニー、レギュラシオンの貢献に注目している。

 対して「反経済学」からの経済学批判は、「経済学は成長や効率性を重視するあまり、社会的問題の多様な特性を考慮しない特定の価値判断に依拠するものだとの批判」であり、トマス・カーライル、ラディカル経済学、シューマッハーロールズ宇沢弘文佐和隆光、サンデルらの貢献が的確に紹介されている。

 その上で佐藤さんは「経済学批判」の現代的可能性を、ジョセフ・ヒースの書籍などを紹介し、そもそも人間の知的活動の中で経済学的な知の「適切な位置づけ」が必要であることを指摘している。その意味でも経済学、経済学批判の両方の歴史的系譜をみることが重要である。岩井克人氏が指摘していたが、歴史を考察することは現代の蒙を啓らくことにつながるのでる。

 なお、佐藤さんの「反経済学」の中での宇沢弘文を位置づける解釈に僕も賛成であり、それについては以下の論説で書いたので参照されたい。
http://biz-journal.jp/2014/10/post_6214.html

以下に自分の備忘録もかねて紹介されてた文献(及び自分で関連しているなと思うもの)でまだ未見のものを。

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