若田部昌澄「景気復活に不可欠な「新・アベノミクス」」in『Voice』五月号

 アベノミクスの現状分析、そして歴史に学びながらの今後の望ましいビジョンについて若田部さんの主張がわかりやすく整理されている。

 経済政策の目標ー景気安定化、経済成長、所得再分配ーに応じて、今の日本の必要な政策を「三つのR」として表現している。それはリフレーション、リフォーム、所得再分配の英語のイニシャルである。

 リフレーションの評価。ここ二四半期の経済成長率が鈍化しているのは懸念されるが、金融緩和に呼応して物価上昇。レジーム転換での期待インフレ率の上昇、円高シンドロームの終焉に至るか? など注目すべき段階。

 リスク要因。1)日銀の2%2年以内という目標到達可能性への懸念、2)消費税増税の影響。政府と日銀の協働によるデフレ脱却へのコミットメント強化必要。

 アベノミクスの「第三の矢」を批判的に検討。政府のやれるべきことに集中すべき。そのひとつとして政策イノベーションをあげる。論文では政策イノベーションの実例が表示されている。また政策イノベーションを実現するための政策形成過程にも経済学の知見を導入すべきだと指摘している。

 経済についての望ましいビジョンとして。既得権益保護政策と効率化政策の両方を例示して、若田部さんは後者を重視する。効率化政策とは、「改革によって生活水準が上がった人が、生活水準が下がった人に対して補償を与えても、なお改革前よりも高い生活水準を維持しうる政策」と定義できる。詳しくは八田達夫先生の『ミクロ経済学』?と?を参照されたい。

 この効率化政策の歴史的な実例として、若田部さんは池田勇人内閣のものが近似してるとする。「所得倍増計画」でそのブレーンの下村治とともに著名だが、池田も下田も「計画」という発想を嫌う。民間中心で経済が動くことが中心で、「政府の干渉は、国民の活動が十分に、競争が公正に行われて、各自の創意工夫努力が最大限の成果を挙げうる条件をつくることに限定すべきである」と考えた。

池田内閣の具体例
1 成長の原動力を都市におき。太平洋岸ベルト地帯という都市部に重点的な公共投資
2 貿易自由化推進
3 石炭から石油へのエネルギー政策の転換
4 中小企業政策は生産性重視、農業政策では零細農耕・零細土地所有の問題に取り組もうと意欲

 池田のビジョンは田中角栄が首相になる1970年代には消滅し、都市から地方への再分配政策が中心に。若田部さんは「社会を固定化し、再分配を強化する政策が続いた。現在も与党自民党はこうしたビジョンから抜け出られないように思われる」。

 リフレーションを実現し、もうふたつのRの達成が必要である。アイディアもお手本もある。「あとはどう行動するかである」。