永井義雄・柳田芳伸編『マルサス人口論の国際的展開』

 共著者のお一人喜多見洋さんから頂戴しました。ありがとうございます。本書はマルサス人口論の国際的な影響力の伝播を思想史的に考察した論文集です。世界的にも類のない先駆的な業績であり、人口問題が日本でも世界でもさまざまな局面で話題になっているだけあり、このような地道は研究はとても有益です。
 本書は副題に「19世紀近代国家への波及」とありますように、いわゆる「長い一世紀」的な視点に立って、マルサスの『人口論』の初版が出た年(1798年)から、ロシア革命の年(1917年)までを射程にし、イギリス、オランダ、フランス語圏、イタリア、ドイツ語圏、そしてスウェーデンについてその波及を検証しています。
 スウェーデンについては重商主義研究で著名なラーシュ・マグヌッソンが「19世紀のスウェーデンにおけるマルサスと経済学」で、なぜ19世紀にマルサス人口論が、スウェーデンで波及しなかったのかを、経済の成長の段階の相違や、また経済思想のあり方(重商主義的な経済観が中心)の相違から論じています。まったく知らない話題ばかりで非常に刺激的です。
 マルサスの『人口論』が優生学的議論や、ダーウィンの議論などとどのように関連していったのか、その方向での波及過程の検証も今後行われるかもしれず、マルサス学には今日的な話題からの関心を含めて注目が今後もあつまるのではないでしょうか。

マルサス人口論の国際的展開―19世紀近代国家への波及

マルサス人口論の国際的展開―19世紀近代国家への波及