グンナー・ミュルダール『ミュルダール 福祉・発展・制度』(藤田菜々子訳)

 ミネルヴァ書房は最近、マーシャルやピグーなどの福祉に関心がある経済学者の翻訳を着実に刊行している。本書もミュルダールの本邦初訳を何編も収録した学術的にも意義のある貢献だ。ミュルダールは経済学の方法論、人口政策、期待を重視した貨幣理論、『アメリカのジレンマ』での人種問題、『アジアのドラマ』での発展途上国問題、そして制度主義的な経済学の手法、「福祉世界」の構想などでも知られている。その学術的貢献でノーベル経済学賞を受賞してもいる。だが一般にミュルダールの業績は知られていないだろうし、また専門研究も始まったばかりといっていい。
 本翻訳では経済学の価値前提・価値評価をめぐるもの、人口政策、長期的な財政政策の策定に関するもの、「国際的統合」、国際的な平等に関する論説、ミュルダールの制度主義に関する立場の表明などそれぞれかなり難解ではあるものの、重要な論説が収録されている。
 日本のミュルダール研究の先頭にたつ藤田さんの書いた解説で、まずはミュルダールの貢献の展望と収録された各論文の概要を読んだうえで、それぞれの論文にあたったほうがいいだろう。
 特に人口減少問題を扱った第三章「人口問題と政策」は今日の日本の問題を考えるときにもインスピレーションを与えてくれるものがあるだろう。

ミュルダール 福祉・発展・制度

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