ドナルト・ウィンチ死去

 最近、自分に影響を与えた経済学者の死去が多く寂しいですね。ウィンチ氏は経済思想史や思想史での貢献が知られている、その分野での大御所です。日本でもいくつかの主要著作が翻訳されていて、『古典派政治経済学と植民地』、『アダム・スミス政治学』、『マルサス』は単著として著名なものです。また共著ですが、『かの高貴なる政治の科学』も重要な文献といえるでしょう。またイギリスの知性史三部作はウィンチの晩年の貢献を知る上で欠かせない業績だと推察します(不勉強ですが、この三冊は未読です)。

 個人的には、最初の『古典派政治経済学と植民地』には影響をうけました。特にアダム・スミスの植民論、余剰はけ口理論の解釈などです。また最近でもAJERでのネット講義でもこの本は、日本の植民政策論やジェイムズ・ミルの解釈をするときに役立ちました。

 また『アダム・スミス政治学』ですが、これを読んでいるときに、たまたまいまは亡き藤原保信先生とお話しする機会があり、先生は一言「僕はウィンチの意見に賛成できない」と厳しい表情でいわれたことを昨日のように思い出します。藤原先生の自由主義の解釈とウィンチの自由主義の解釈の対比をいつかしてみたいと思います。

 ウィンチではその他になんといってもジェイムズ・ミルの『経済学論文集』(未邦訳)の編纂とその長文の解説が、僕には重要でした。これがなければおそらく修士論文やそれをもとにしたミル論は書けなかったろうと思います。

 ウィンチ氏の業績についてはいつか短文でもいいのでなにかまとまったもとを書いてみたいと思います。

 ご冥福をお祈りします。

アダム・スミスの政治学―歴史方法論的改訂の試み

アダム・スミスの政治学―歴史方法論的改訂の試み

古典派政治経済学と植民地 (1975年)

古典派政治経済学と植民地 (1975年)

マルサス

マルサス

かの高貴なる政治の科学―19世紀知性史研究 (MINERVA人文・社会科学叢書 (108))

かの高貴なる政治の科学―19世紀知性史研究 (MINERVA人文・社会科学叢書 (108))

Selected Economic Writings

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Riches and Poverty: An Intellectual History of Political Economy in Britain, 1750?1834 (Ideas in Context)

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