宮崎哲弥・飯田泰之・河合正弘・小此木潔「経済・メディア衆論」

 公然リフレ派(実名さらしてネットで活動するリフレ派)の主要メンバーがスペイン出張中につき、わたくし田中が代わって事後宣伝。ところで僕も近いうちロンドンいくんだけどあっちらはリフレの嵐が吹き荒れてて、庶民レベルでもヘリマネ全開だとか。ぜひ日本も見習いたいものです。

 朝日新聞の昨日の記事。まず飯田さんの問題提起ー「底打ち」を楽観的に見ることで景気回復がないまま不況が長期化するリスクが大きいこと、本来なら政策的対応を備えなければいけない自民党民主党の両方のマニフェストが、十分な成長(つまりここでは景気回復)がないまま再分配を強く志向していることへの危惧などが指摘されている。

 この飯田さんの問題提起に対して各論者がどう答えたかであるが、実は一番のこの座談の売りは飯田さんのこの問題提起があるということに尽きると思う。なぜならこれだけ大規模な総需要不足の不景気が、こんなに簡単に終わるわけない、という実感レベルがあるのにもかかわらず、肝心の政党・政治家たちがまったく今回の選挙でその景気の問題を事実上無視していることがよくわかるからだ。

 簡単にいうと、景気重視といっている自民党も、格差対策や高速道無料化などといろいろいっている民社党も、ともに同じ大きさのケーキの切り方を工夫しているだけで、少しもケーキ(景気)を拡大することを真剣に考えていないからだ。

 ではなぜそうなるのか? その理由は残念ながらこの座談会にはない。しかしいまここで簡単に言い切る。それは各政党とも「都市部の貧しい若者(10〜30代)は無視してもかまわない」と思っているからである。それに尽きる。

 貧しくなる理由は、1)景気の悪化による失業もしくは失業同然の状況。2)それに加えて税金だとか年金だとかで貧しい若者はさらに搾り取られ、それが田舎や都会の富裕な中高年層に再分配されているからだ。

 もちろん各政党(ついでに財務省日本銀行もマスコミでさえも)はこの1)と2)の対策を真剣に考えない。なぜか。票にならないからである。また彼ら自身の生活実感からも離れていることは間違いない。

 では、その対策としてこの座談会で上がっているのが、飯田氏も宮崎氏も指摘している需要創出効果である。特に金融緩和政策をなぜ積極的に行わないか、という点に焦点があてられるべきだが、ここでもやはり日本的風景なのだが、数少ない「国際派」と称されている河合氏は金融緩和に否定的な態度をし、グリーンニューディールや中国の中間層向きの市場開拓を志向する。

 しかし金融システムが傷んでいるから欧米は中銀のバランスシートを拡大させる必要がない、ということは要するに金融緩和する必要はない、ということである。申し訳ないが、、拡大させる「必要がない」というのはおかしい。河合氏の論法にあえてのれば、金融システムの破損がそれほどでもないならば、それほど中銀のバランスシートを拡大しなくても景気が回復するはずではないか? そう河合氏が期待する中国人民の購買力よりも確実に。また当たるかどうかまったくわからないグリーンなんとかよりも確実に効果があるはずではないか? 

 ところが河合氏の発言でも民間が持続的に成長するためには「総合的な経済政策」が必要だという。どうも「総合」から金融政策が抜け落ちていることだけは明白なようである。所長(アジア開発銀行研究所所長)の職務上、アジアに期待みたいな話をするのはいいが、、多くの国民が困窮している状況で、自分の所長としての職務に忠実すぎるのも考えものではないか? 僕はそう率直に思う。

 さて1)の解を金融政策にあるとすれば、2)はどうかといえば、所得税の累進税率を下げたことが格差拡大の原因なので、要するに富裕層の増税貧困層の減税が格差拡大そのものにストップをかけるだろう。しかし実際は贈与税減税や、企業減税などが優先して行われているだけである。

 あとシンクタンクの話は正直いって僕も話題に困ると持ち出す程度のものなので、そういうものよりも、ひとこと「金持ちの年寄りのことが心配で、都会の貧しい若者は野たれ死んでもかまわない、と両政党とも思っているようだ」という野蛮だけど本当のことを強調していってほしかった。

 河合氏にははなはだ失望したが、それでも飯田氏の問題提起と1)と2)への解決策の提示、宮崎氏の論点の明確化(景気回復なくして満足な成長もなく、低炭素だとかの能書きを冷静にみること、各党のマニフェストの矛盾の指摘)など、朝日新聞で明らかにしいたのは大きな意義をもつだろう。