『voice』9月号たぶん献本頂いていると思いますが、来週の真ん中じゃないと群馬に出勤しないのでたち読みでご紹介。
本論説の表題を簡単にいうと欧米の中央銀行に比較して、日本銀行の景気対策はむしろ積極的な消極策になっていること、いいかえると日本銀行が過度の円高をもたらすことで日本の産業界を苦境に落とし込んでいるということである。
サブプライム危機以降の金融政策のスタンスを各国比較してみると、金融緩和政策の手段として金利を引き下げる余地が各国とも限定されるいなかで、米国、英国を中心にして各中央銀行のバランスシートを拡大する政策ーつまり多様な民間や政府の資産を購入してその代わりに市中にマネーを供給する。マネーが増えればそれが為替レートを自国通貨安に導くなど多様な景気刺激のルートが開く。
ところが積極的な米英どころか消極的にみえるユーロ圏の中央銀行(ECB)に比較してさえわが日本銀行は消極的。むしろ08年の一時期だけ緩和基調ぽいものが観測されたが、事実上の引き締め基調ともいえるスタンスを維持している。
浜田先生は、このため日本の円だけが他国通貨に比較して円高であり、輸出入の競争力に関連している日本の実質実効為替レートはリーマン危機以降大きく拡大し、そのために日本の輸出入産業の背負うハンディは30%近くに達している。例えば浜田先生が書いているわけではないが、このような円高基調が不況の持続とともに継続するならば、日本の企業の多くはより安価な労働力などを調達する海外に移動するだろう。それがしばしばメディアなどでいわれる「産業空洞化」ともまたぞろいわれるだろう。しかしそれは日本が中国に競争力で負けたり、あるいは日本に構造問題があったり、低炭素技術を中国の中間層に売り込める「総合経済政策」が不在だからではない。ただ単に金融政策の超消極姿勢が生み出した為替レートの不調整でしかない。
ただでさえ不況が深刻なのに、日本銀行が政策を転換せずに(事実上の)緊縮スタンスのままでは、わざわざ産業界全般を苦しめるために「貢献」しているといわれてもしょうがないであろう。
浜田先生の論説は非常に明瞭なのでぜひ一読すべきだろう。
なお同号では若田部昌澄さんの「マニフェストでは不十分」という論説が掲載されていて、そこでは民主党・自民党双方の金融政策への認識の欠如という異常な姿が指摘されている。