クールノーとノイマンの学説史研究


 yyasudaさんのブログを拝見していて、「また、経済学説史ではその貢献の大きさに見合った評価があまりなされていない(ように私には思われる)クールノーノイマンの貢献が」という一文があったので、ちょっと最近のクールノーノイマン研究を見てみたいと思います。僕がこの一文に魅かれたのはその昔、フランス語を学んだのはクールノー研究で当時国際的に著名だったクロード・メナードの「組織の経済学」のテキストだったり、ジェームズ・ミル修士論文の前にニート時代に興味をもっていたのがノイマンの学説史的研究だったからです。


 メナードの教科書は当時はいまのようにこの分野のテキストがなかった90年代はじめの方に購入したものです。以下のもの

Economie des organisations (Poche)


 その後、メナードの翻訳も日本ではでたり、またメナード自身、新制度派経済学の権威になりましたが、当時は僕にはあくまでもクールノー研究の泰斗。

 代表作は、『合理的経済学の誕生』で、これは今日でもクールノー研究のはずせないものでしょう。そして80年代までのクールノー研究の展望については、この本を読めばほとんどフォローできますし、なによりもクールノー自身の全集があるのもクールノー研究が一定の水準に到達していることを示していると思います。70年代からでて確か完結しているはず。


 最近でもフランス語・英語ともにクールノー研究の注目作は多いですね。詳細はwikiのフランス語版の参照文献の項目などをみても以下のものがありますね。


Cournot sociologue, Robert Leroux, Paris, Presses Universitaires de France, 2004.
Cournot, le réalisme, Bertrand Saint-Sernin, Paris, Vrin, 1998.
La société du probable : Les mathématiques sociales après Augustin Cournot、Jean-Philippe Touffut (Broché - 14 novembre 2007)

 英語での最新の学説史研究論文集もでたばかりなのでそこらへんあたるといいのかもしれません(未見)。ですのでクールノーの学説史研究はフランス語圏を含めるとかなりの高水準に達してますね。クールノー研究センターもあるようですし。


Augustin Cournot: Modelling Economics (The Cournot Centre for Economic Studies Series)

Augustin Cournot: Modelling Economics (The Cournot Centre for Economic Studies Series)


 次にノイマンですが、これはまず日本語で読めるものとしては、以下が90年くらいにすでに利用できましたね。


フォン・ノイマンとウィーナー―2人の天才の生涯

フォン・ノイマンとウィーナー―2人の天才の生涯


 ノイマンの故郷のブタペストの知的伝統や彼が経済学者のマルシャクらやウィーン学団の人たちとの交流史などを描いてましたね。ノイマンはアメリカに亡命したので亡命知識人の研究からもフォローがなされていました。


 あと英語では以下の文献がありました。

John von Neumann and modern economics / edited by Mohammed Dore, Sukhamoy Chakravarty, Richard Goodwin. Oxford : Clarendon Press New York : Oxford University Press, 1989


 そして90年代になると一気に学説史研究が加速し始めるのです。最も僕が追ったのはせいぜい90年代真ん中ぐらいでそれからは日本にしか興味はないのでよくは知りません。以下がノイマンの経済学説史研究では重要なものかと。

Toward a History of Game Theory: History of Political Economy/Annual Supplement to Volume 24 (History of Political Economy Supplement) E. Roy Weintraub (編集)

A History of Game Theory: From the Beginnings to 1945 (Routledge Studies in the History of Economics, 8) Mary Ann Dimand (著), Robert W. Dimand (著)


囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論

囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論

 日本でも中山智香子さんがモルゲンシュテルンとノイマンの共同作業についての実証的研究をしていて、いまだに継続研究中ですね

The process of collaboration between von NEUMANN and MORGENSTERN’, working paper for the 9th conference of the History of Economic Thought Society pf Australia, 1996. 7, 於シドニー(オーストラリア)


 また僕も日本代表(笑)で参加した世界の偉大な経済学者の復刻シリーズで、ブキャナンたちが『ゲーム理論と経済行動』の巻の解説冊子(といっても立派な単行本ですが)に書いたものがあります。ちなみにドイツ語です。

John von Neumanns und Oskar Morgensterns "Theory of games and economic behavior" / James M. Buchanan ... [et al.]. Dusseldorf : Verlag Wirtschaft und Finanzen, c2001.


 伝記(『フォン・ノイマンの生涯』)や書簡集もでてますね。個別の経済学史的研究はいろいろあると思いますがまあ、書籍としてはノイマンの方はちょっと不足ぎみかな。