川俣雅弘『経済学史』

 川俣さんから頂戴しました。ありがとうございます。読み通すのに時間がかかり紹介するのが少し遅れましたが、現代の教科書レベル(大学上級)の経済学をひとつの到達点にして、そこに至るまでの経済学の歴史をみると同時に、また現代の経済学とは対抗する学説や忘れられた学説の意義もみとめ、それについて周到に目配りをしながら書き上げた、おそらく現時点で最も信頼できる経済学の通史です。

 やはり教科書レベルのミクロ・マクロ経済学の知識で経済学の理論の歴史を追えるというのはとても魅力的です。同様の試みとしては、根岸隆先生の『経済学の歴史』(東洋経済新報社)がありますが、それと川俣さんの本との違いは、根岸先生のはケインズまでで終わり、川俣さんのは現代の経済学まで至ることです。これは両者の経済学史に対する考え方の違いに基づくものですが、単純化していうと根岸先生の経済学史観はあくまで過去の学説の解釈を現代の経済学の進歩に生かすという目的であり、他方で川俣さんのは過去の経済学の「発展」の系統樹をできるだけ丁寧に描き現代までその系譜をたどることが目的となっています。経済理論家と経済学史の専門家の視点の違いといえばいえるでしょうか。

 ただ川俣さんの『経済学史』と根岸先生の『経済学の歴史』は相互補完的な関係にあるといえます。両者を照らし合わせて学習すると、経済学の流れと現代の経済学両方に関する知識を得ることができるでしょう。刺激的な読書体験になると思います。

 個別には、川俣さんの序数主義の歴史展開やヴィーザー研究の成果が活用されているところはとても勉強になります。さらにマーシャルの体系の解釈として貨幣の限界効用一定のもつ意味が詳細に解説されていて、根岸先生の通史ではここまで丁寧に説明されていないだけに大変便利なものです。また重商主義とスミスの体系がおもわれてるほど理論的には違わないという指摘、ランゲによるマルサスの解釈を丁寧に追ったところ、おそらく入門レベルではこれほど全貌を丁寧に解説されたことがないだろうジェボンズのパートなど読みどころ満載です。

経済学史 (経済学教室)

経済学史 (経済学教室)