パリス・ヒルトンの経済学がいま愛される理由?

 労働経済学の権威であるBorjas先生のブログから。ここ


 当ブログではパリス・ヒルトンに注目する!と若干気の早い予測(http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20061101#p2)をたてておりましたが、どうもアメリカ経済学界が猛烈な勢いで当方にキャッチアップしてきたようです(爆×10)*1


  パリス・ヒルトンって知らない、という人はwikipediaここをどうぞ。


 現時点で最も信頼できるパリス・ヒルトン本は以下のものです。ええ、ご明察の通り購入してペラペラ一応は目にしましたよ(笑)。いや、ちゃんとした本ですよ、10年ぐらいすると紙が酸化してぼろぼろになりそうな感じの本なのも浮世の侘びさびを醸し出しでグーです(^^;

Paris Hilton: The Naked Truth

Paris Hilton: The Naked Truth


 パリス・ヒルトンに無理なく接近(?)するには彼女のでた映画から攻めるのがいいでしょう。意外とまじめにやってますよw。あと僕の方のパリス・ヒルトンの経済学の方で紹介したTVシリーズはそんなに面白くはないのですが、ただ単にパリス・ヒルトンがどう動き話すのかを知るにはいいとは思います。


 さてBorjas先生のブログの中味の方ですが、ローゼンの古典的な論文*2を援用して、セレブの価値を高めるのに今回の刑務所での服役は長期的に有効である、というものです。わずかなトレーニング(現在の服役)が将来のセレブ価値を高める効果をもつということです。ま、こんな理屈が成立するのはもちろんBorjas先生が冒頭で書いているようにパリスがパリスゆえにセレブ価値をもつからに他ならないわけで、ほかの人が服役しても市場価値は急落するのはほぼ間違いのないことだと思います。


 なおBorjasブログの終わりの方で言及されているローゼンのスーパスターモデル*3ですが、これは簡単にいうと再生産可能な財(DVDやCD化された音楽や映画での歌手や俳優のパフォーマンス)の市場では、スターの名声は時の経過とともに経済価値を高めていく、という傾向を論じたものともいえます。これは上の僕の方のエントリーで紹介したコゥエンのWhat Price Fame?でも詳細に議論されていますが、このほとんど限界費用がゼロに近い“一流品”の再生産可能性が、市場から二流三流の歌手などを駆逐してしまい、ひとり勝ち市場にしてしまう(供給面の非効率性をましてしまう)可能性と密接なものです。この意味からのスーパースターモデルのひとり勝ち効果をロバート・フランクらはこの本で議論しました。


 ただエルビス・プレスリーが現在もまだ世界中で活動しているのを考えると、スーパースターモデルとは異なりトリックルダウン効果(経済的上流が下流に金銭的波及効果を及ぼすこと)がひとり勝ち効果を上回っている可能性もあります*4


 またパリス・ヒルトンの場合は短時間で釈放される予想ですので機会費用がそれほど大きくなく、同時に(Borjasの指摘する効果を無視しても軽微な罪状からそれほど)セレブ価値の低下をもたらさないと考えられます。しかし大抵の人の刑務所服役の機会費用は大きいものと推定されます(大きくなく過少であると服役が生活保障のサービス提供と無差別になる可能性がでてきますし、それは門倉さんの本でも指摘されています)。またセレブ価値が最初にない人が刑務所の現時点の苦役を将来の市場価値に大きく貢献することを許すには特殊な才能が必要だと思います。例えば山本譲司安部譲二の各氏ですね。反対に服役でセレブ価値を急激に失った人はそれこそ大杉栄ですので念為。

*1:ハミルトン先生も注目http://www.econbrowser.com/archives/2007/05/george_borjas_t.html

*2:Learning and Experience in the Labor Market, 1972, Journal of Human Resources

*3:出典はThe Economic of Superstar,1981,American Economic Review

*4:この点の議論はコゥエンの本に詳細です