『論争 格差社会』

 いわゆる「格差社会問題」をとりあげたいくつかの論説を収録。位置的には大竹文雄論説が格差社会論の中心的な視座を与えるものとして位置づけられている。要点は格差は存在するが主な要因は高齢者の増加効果というもの。それと若年層の長期的な失業が「格差」に貢献する。さらに景気回復の初期段階での資産価格の上昇が格差が拡大したという認識をもたらすかもしれない、という指摘。他には当ブログでもとりあげたモリタク論争の一貫としての、格差拡大は規制緩和が原因ではなく不況説というもの。ただし私はすでに書いたが事実上、大竹氏が規制緩和に(不況によりもたらされた)経済格差を緩和する効果を認めていることに懐疑的。ここらへんは拙著(『経済政策を歴史に学ぶ』)を参考されたい。

 注目したいのは仲正昌樹氏の事実上の金子勝批判。仲正氏は別の著作『わかりやすさの罠』でも金子氏の二元論的な敵味方レトリックを徹底的に批判しているが、ここでも金子氏の「格差拡大社会・下流ファッシズム論」(「将来の展望を持てず下流化している若者たちが、結果的に自分の首を絞めることになるともしらずに、現状を打破してくれそうな小泉首相のリーダシップに期待する傾向を強めており、そうした英雄待望論が戦前のようなファッシズムの温床になり得る、というのである」)をとりあげて、批判を展開。金子の主張には(金子いうところの)「下流」の若者が小泉政権を支持しているデータがないこと、さらに「下流」の若者がわざわざ自民党支持活動をするインセンティブが不明、と指摘。ちなみに金子氏の二元論的レトリック批判は私も数年前に彼の『日本再生論』を書評したときに書きました。旧ブログのどこかに掲載してあるはずですので、後でリンク。仲正氏の論説はこれから注意して読みたいと思います。


 そして本田由紀・若田部昌澄・稲葉振一郎の座談会も収録。なんだか懐かしい。この座談会は本書の編者の紹介ではやや傍流扱い(しかもみんなを若手扱い、ということは同年代の僕もまだ若手だ、ヤッホイw)してんじゃないのかなあ。大竹論説の一部懐疑的読解や金子批判というマニアック(笑)な読み方を別にすれば、この座談会を丁寧に読めば、格差社会論争の展望はできると思う。

論争 格差社会 (文春新書)

論争 格差社会 (文春新書)