竹森俊平氏の今朝の日経教室


これはいい! 日本経済新聞経済教室「ポストゼロ金利 上」の竹森先生の論説です。


 要するにゼロ金利解除の理由と今後の方針に関する日銀の説明が事実上ない、ということです。


この点は私もブログで同じ意見を表明してますので激しく同意いたします。


 特に竹森先生は、5月22日の日経の総裁単独会見と「展望レポート」をもとに、


1 「引き締め局面では、長期金利は、政策金利引き上げ期間の予想に依存して変化し、他方でその予想は、政策意図を判断して形成される。だから、透明性は重要」


2 日銀の現在の政策スタンス(二つの柱=標準シナリオの明記+確率は低くても発生したコストを考えること)は、グリーンスパンFRB前議長の手法に似ているが、「展望レポート」はむしろその逆ではないか。
 理由:展望レポートでは上振れリスク(=インフレの加速化)を重視し、物価下落・景気悪化という下振れリスクを軽視。
「本当に日本経済は下振れリスクに耐えられるまで回復したのか。長期デフレが続いた後なのに、上振れリスクがそれほど深刻なのか」と竹森先生。


を批判的に指摘しています。


 そしてゼロ金利解除自体にも、日銀は市場がすでに利上げを先取りして長期金利が上昇していることを理由にあげていることに注目しています。これは昨日の総裁記者会見にもありますように、日銀と市場参加者との対話の一致、イールドカーブに利上げが織り込まれていること、などを指しているとみていいでしょう。このような日銀の説明に対して竹森先生は、


 「長期金利は、00年のときにも事前に上昇していた。それでもあの政策は失敗していた。今回、長期金利が利上げを先取りしているのは、量的緩和政策を転換すれば、次はゼロ金利の解除だと市場が予想したためだ。その後についてはやはり日銀は長期的な方針を明記すべきだ」。


 これは当ブログでも繰り返し強調してますが、量的緩和解除とゼロ金利解除は時間軸効果の点で一連のものですので、市場が日銀当座預金残高の削減をみれば、(日銀が当座預金削減とゼロ金利解除を不連続なものといくら強調しても)市場は引き締めを織り込んでいくのは必然でしょう。



 問題は今後の見通しが、低水準に金利を維持し、市場の動向でいわゆる「ファインチューニング」するとでも取れる日銀の裁量スタンスが問題になると思います。この金融政策の裁量性や市場動向にあわせた短期金利のファインチューニング(いわゆる受動的日銀政策)こそ、バブルとバブル崩壊、そしてその後の金融緩和の不足を招いたものでしょう。


 当然、竹森論説もこのバブル期の反省が日銀にないことを突いています。


「要は、バブル期の金融政策を日銀がどう反省するかだ。その反省の仕方によって今後の方針が見えてくる。バブルの予防の失敗を重視するなら、今後、地価の急騰を警戒した行動をとるだろう。他方で、バブル崩壊後の金融緩和が不十分だった点を反省すべきだとするならば、下振れリスクを重視して金融政策を行う。こうした点も、日銀は明確にしていない」


 竹森論説では無論、下振れリスクの過小評価を問題にしていますが、要は日銀の政策に関する説明責任が事実上果たされていない、ということに集約されると思います。


 この点をより過激にしたのが、branchさんが14日にご紹介時事通信の報道(7月14日付)による中原伸之氏の以下のコメントでしょう。


「景気はこれから後退局面に入ると予想され、最悪のタイミングでゼロ金利は解除された。米経済は住宅バブルが崩壊しつつあり、個人消費への悪影響が懸念される。原油価格は高騰が続き、世界経済を圧迫している。日銀が内需のバランスを評価する日本経済も、実際には輸出と設備投資への依存が高まっており、海外経済が落ち込むと直撃される構図だ。
 日銀は市場が発する危険信号を過小評価する体質があり、今回の局面でも株価・原油動向などを軽視した。失敗に終わった6年前とそっくりだ。「総裁の資産運用問題で政府に借りはない」というメンツを重んじたようにも見える。再び失敗して景気後退が鮮明になれば結果責任を取る必要がある。総裁以下、政策委員会の全メンバーは辞任すべきだろう。」


中原氏の石油の経済学については以下に簡単にまとめましたのでご覧ください。