上野泰也『週刊エコノミスト』論説&加藤出『ダイヤモンド』論説


 上野論説「FRB利下げ「出し渋り」の錯誤」はサブプライム問題関係では必読。僕はどこかで書いたけれどもFRBが市場の予想を裏切るほどのペースで利下げを敢行して4%を切るまで継続していくのが望ましいと考えてます。その意味で「インフレ懸念」というFRBの注釈とか打ち止め感濃厚な前回の政策決定には懐疑的でした(これも当ブログで書いたことありますが)。


 上野論説は3月まであと二回の利下げと4%台までの水準予測さらに必要とあればより一層の緩和を行って、金利に敏感な住宅市場投資を刺激することが大切である、と強調しています。そしてサブプライムローンのミクロ的な処方についても情報の開示と不良化した資産の見積もりを厳密に算出するように求めてもいます。


 FRBについては前回に反対票がでたことや、タカ派(利下げ必要なし)の台頭で前回がぎりぎりの決定だったことを紹介してもいます。しかも各国の中銀首脳にはグリーンスパンの世紀初頭の金融緩和が今回のサブプライムローンの「バブル」化とその崩壊を招いたという「共通認識」があるようで、そのために今回の利下げに慎重である、ということです。しかし、資産市場が下落方向に不安定化していて、さらに実態経済にその資産市場の不安定性(サブプライムだけではなく、上野論説ではFRBの貸出調査を援用してほぼすべての信用経路で“貸し渋り”化のリスクが顕在化しつつある、と注意しています)が悪影響を及ぼすのならば、将来の「バブル」つぶしという不可知論的存在よりも、ここは積極的な利下げが必要でしょう。


 そのような認識とはほぼ対照的に、日銀の政策はFRBの政策を事実上先取りないしそれと同じである、と力説しているのが、『週刊ダイヤモンド』の加藤出氏の論説です。日銀はFRBや各国中銀のように物価指標だけでなくそれ以外の経済指標を丹念にみている、という主張です。で、この加藤論説だと日銀のいまの金利上げモードはベストなわけですが。


しかし各経済指標をみると日銀の主張する不可知論的な将来「バブル」の発生以外は、雇用、経済成長、景況感、株価指数、為替、国債利回り、などすべて悪化の方向にあるわけで、まさに加藤出氏のいうとおりにするならば、あいかわらずのゼロ近傍の物価指標を(なぜかわざわざ)無視しても、いまや利下げに動くのが妥当といえるでしょう(利幅に制約があるのでインフレターゲットの採用を推奨します)。一万歩譲って少なくとも金利は現状維持でしかも利上げ放棄を総裁たちが明言することが肝要です。すでに利上げ発言は日銀の組織防衛以外に意味をもたないものです。


 付言すると上野論説にも示唆されていますが、かりにグリーンスパン負の遺産が、彼の資産市場の「バブル」対策の失敗にあるならば、それは彼の金融政策がインフレターゲット(あるいは伸縮的インフレターゲット)などの物価・雇用指標をみずに、「バブル」の水準を意識したために生じたといえるのではないでしょうか? その意味で、90年代末にジャクソンホールでのバーナンキ(とガトラー)の報告はグリーンスパン(当時FRBの政策)批判として有効だったし、いまでもそうでしょう。