去年に続いて今年もニコニコ生放送でノーベル経済学賞の実況解説をしますが、今年は予測もしてくれとの依頼。それを番組公開前に各自のブログで公開せよ、とのことです。山形浩生さんはすでに掲載していますが、勝間和代さんはどこにあげるのかな? 今年はいまのところ経済学者は僕ひとりでちょっと大変ですw。
それはさておきノーベル経済学賞については、最近は安田洋祐さんの貢献が有名ですが、僕も10年以上前は毎年のように朝日新聞などにコメントや予測を出していたのでした。『経済セミナー』(2005年2月号)にも「日本人はノーベル経済学賞をとれるのか」という論説を寄稿しています。それをベースに拙著『経済政策を歴史に学ぶ』(ソフトバンク新書)には独立した章もあります。そこでは主にふたつの観点、被引用数と経済思想からノーベル経済学賞の受賞理由などを解説しています。
今回の予測は、経済思想的な分析はニコ生の番組で話すとして、被引用回数だけではなく、経済学者の業績の権威を示すいくつかのポイントに注目していこうと思います。その上で、「もっともらしい候補」と「願望としての候補」、そして「とらないかもしれないがえらいひと」と「いま個人的に注目している経済学者たち」という四つの観点から以下人名をあげていこうと思います。
まず「もっともらしい候補」とは、以下の6つのポイントから考察したものです。偉大な経済学者たちに与えられる賞に、ネンマーズ賞(経済学部門)があります。この賞は比較的最近できたものなのですが、受賞者とノーベル経済学賞との相性がいいので知られています。2016年までに12名同賞の受賞者がいるのですが、そのうちなんと7名がノーベル経済学賞も受賞しています。しかも注目すべきは、ノーベル経済学賞を受賞する“前に”同賞をとっていることから、ノーベル経済学賞の先行指標としてかなり使えます。まだ受賞していない5名の中から、今年ノーベル経済学賞を獲得する人がでてもおかしくないでしょう。リチャード・ブランデル、ダロン・アセモグル、エルハナン・ヘルプマン、ポール・ミルグロム、アリエル・ルービンシュタインです。この五名を「もっともらしい候補者」のコアとします。
さらに佐藤隆三先生の指摘ですが、若手経済学者に与えられるジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞すると平均22年後にノーベル経済学賞を受賞するといわれています(『メジャー級アメリカ経済学に挑んで:学究生活50年の軌跡 』日本評論社)。現時点から22年前は1995年ですが、1995年以前にクラーク賞を受賞した経済学者たちを今回の候補にいれてみたいと思います。ちなみに2017年現在で同賞受賞者39名中12名がノーベル経済学賞を受賞してその確率は32.5%です。ただし1995年以前のジョン・ベーツ・クラーク受賞者にしぼると、50%の高率になります。これはネンマーズ賞に次いで高い確率の先行指標として認定したいと思います。
被引用数の指標ももちろん大事です。トムソン・ロイター引用栄誉賞(2017年からはクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞に名称変更)は参考になります。被引用数の累積ではないのですが、それでも同賞の受賞者の中から数年のラグをおいて栄誉を勝ち取っていることが多いので参考になります。ただし選出された母数が多くて、また必ずしも確率は高くありません。71名中で14人。約20%程度です。
次に同業者たちからの評価は賞だけではなく、国際的な経済学者たちの学会の会長という地位にも反映されている。安田洋祐氏は論説「5つの「なぜ?」でわかるノーベル経済学賞」(『一橋ビジネスレビュー」2017年夏)でその点を指摘している。安田氏はエコノメトリック・ソサエティ(ES)と全米経済学会(AEA)で歴代会長つとめたもののうち前者は27名、後者は26名、両方の経験者は15名もノーベル経済学賞受賞者がいると指摘している。ただこれに対して近年では、例えばESの会長をノーベル経済学賞受賞の前につとめていた人は、2000年以降はたかだか二名にすぎない、という指摘もある(寺尾健「「社会科学」への拡大2000〜」(根井雅弘編著『ノーベル経済学賞』講談社選書メチエ)。とりあえずここでは、1970年から2016年までの両学会の会長をつとめたことを、ノーベル経済学賞受賞の先行指標としてカウントしたい。
さらにこれも安田氏らノーベル経済学賞に注目してきた人たちの指摘だが、年齢が高いことがあげられる(平均年齢67歳)。これは他の賞にはない特徴で、高齢者ほど有利であり、40代の受賞者はいない。そこで60歳以上を受賞の先行指標としてポイント化する。もちろんこの年齢は先の5つのどれかにかすった上でないと予測上は意味をもたない。
以上の6つのノーベル経済学賞の“先行指標”(年齢は除外)になんらかかすっている経済学者の数は100人を超える。その中で以下の表にあげる人たちが高いポイントを得た「もっともらしい候補者」リストである。特に赤文字は最有力である。
この面子の誰が今年とってもおかしくはない。ただしアセモグル(50歳)は若いのでよほどのことがない限り今年は無理だろう。その他にも2ポイント程度の人は無数にいる。さらに過去のノーベル経済学賞の受賞者には、この先行指標方式では(年齢以外では)たかだか1ポイント、あるいはゼロの人もいる。それを考えると、ノーベル経済学賞をピンポイントであてることはかなり難しい。実際には数名ないし10名程度候補をあげて、運が良ければその中に受賞者がいた、ということになるだろう。
いずれにせよ、ブランデル、ヘルプマン、ディキシット、ジョルゲンソンの赤文字四名は、今年だめでも長生きすればいずれ受賞する確率が最も高い。
さて「願望としての候補」は、ニコニコ生放送で話しやすい経済学者である(笑。それは冗談だが、やはりマクロ経済学やマクロ金融の専門家に受賞してほしい。また日本の経済学者の受賞も願っている。その意味では、ベン・バーナンキやロバート・バロー、ポール・ローマ―らが期待される。ここらへんの予測は山形浩生さんとかぶる。また日本人では、毎年名前があがる清滝信宏が最有力である。林文夫もまた拙著で10年ほど前には筆頭にあげていた。個人的には、ESの会長も務め、また私の専門と同じ(ただし受賞するなら理由はもちろん一般均衡の貢献など)、根岸隆先生(ここだけ先生表記)に受賞してほしいと願っている。それは十分可能性としてはある。いまや数少ないレジェンド級の経済学者のひとりでもある。
その意味では、根岸隆先生は「とらないかもしれないが偉い人」でもある(正確にいえば今書いたように受賞してもなんらおかしくない)。ヤーノッシュ・コルナイ、ルイジ・パシネッティ、アクセル・レイヨンフーヴッドなどいまの経済学の流れでは異端かもしれないが一時代を築いた経済学者にもぜひ再評価がなされてほしい。いまでも十分に現代的意義があるからだ。
さて注目すべき経済学者だが、これについては時間があればスタジオで話したい。
ニコニコ生放送の番組は以下。
放送日時:10月9日(月)18:00~
タイトル:「ノーベル経済学賞の発表を勝間和代、田中秀臣、山形浩生とともに待つ生放送」
http://live2.nicovideo.jp/watch/lv306971156