岩田規久男日本銀行副総裁5月27日講演録と楽観シナリオ成立の公算高し

 僕は街角経済学者なのでこの10数年そうだったように、自分の学生たちの就職動向、それに加えて周辺の同レベルの大学の就職状況の伝聞をもとに、「雇用状況の温度」をみている。経験上その確度はかなり高い。他のリフレ派と僕の特徴差はここにあると自分では思っている。それでいうと楽観シナリオが成立しそうな情勢だ。twitterなどで僕が昨年の終わり頃から書いている楽観シナリオというのは、消費増税の悪影響はあるものの、雇用状況の改善が継続している中で、それが夏前までなんとか維持されていけば、夏の終わる頃ぐらいから物価水準は上がり始め(つまり実体経済が持続的に改善して)、雇用状況のひっ迫を背景にしてかなり早い段階で日銀はインフレ目標を到達できるのではないかというものだ。僕のtwitterの過去発言をみればこの「楽観シナリオ」は早い段階で言明している。

 岩田副総裁の講演録やその提供したデータもまた僕の「楽観シナリオ」に近く、僕の楽観的な見方が成立する可能性が高いことを告げているように思える。

岩田副総裁の講演録
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150527a1.pdf

詳細は上記の講演録を参照されたいが、一部抜粋しておく。

「もっとも、先ほどもお話ししたとおり、雇用・所得環境や企業収益の着実な改善が続く中、家計部門・企業部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けており、消費税率の引き上げがもたらした需要の下押し圧力は収束しつつあります」

「もっとも、先ほども申し上げたとおり、物価の基調的な動きは今後も着実に高まるとみられ、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、インフレ率は目標の2%に向けて上昇していくものと思われます。こうした物価の基調的な動きを判断するにあたっては、?経済全体の総需要と供給能力の差である需給ギャップ、?中長期的な予想インフレ率、?賃金や価格の決定における将来の物価上昇の織り込まれ方、といった要因を踏まえて考える必要があります。まず、第一の要因である需給ギャップを考えてみましょう。労働需給のタイト化による所得環境の改善に加え、エネルギー価格の下落が実質所得を増加させる効果も現れてくるため、個人消費はこの先も引き続き、底堅く推移すると考えられます。企業収益が改善する中で、設備投資は緩やかな増加基調を継続すると見込まれますし、海外経済の回復や円安による下支え効果などを背景に、このところ持ち直している輸出も、緩やかに増加していくとみられます。このように、経済全体の総需要の拡大により、需給ギャップの改善傾向が続くため、物価に対する上昇圧力も次第に高まると予想されます。第二の要因である予想インフレ率はどうでしょうか。市場で観察されるデータや各種サーベイの結果分析などを踏まえると、足許のインフレ率の低下にもかかわらず、中長期の予想インフレ率は、全体として上昇しているとみられます。先行き、実際のインフレ率が上昇すると、そのこと自体も予想インフレ率の上昇要因となるため、予想インフレ率は底堅く推移するものと考えられます。さらに、先ほども触れましたが、この春の賃金改定交渉では、多くの企業で昨年を上回るベースアップを含む賃上げが実現する見通しにあります。企業のビジネスモデルも、「人件費を中心とするコスト削減による低価格設定」というデフレ型のビジネスモデルから、「価格引き下げに頼らず、顧客の満足度を高める新商品・新サービスの開発に注力する」というイノベーティブ型のビジネスモデルへの転換が進行しつつあるように見受けられます。こうした中で、企業の価格設定行動をみても、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる動きがみられています。」

三番目の“価格引き下げに頼らず、顧客の満足度を高める新商品・新サービスの開発に注力する」というイノベーティブ型のビジネスモデル”は、日本銀行の金融緩和政策がもたらしたマクロ環境の改善(株高、円安)による企業のバランスシート改善に支えられている。そしてこの波及として、政府・日銀・労使協調ともいえる春闘などのベースアップをターゲットにしているように見える「所得政策」が実現されているといえる。

この三番目は経済学的にはこなれてはいない説明だが、他方でいまの現政権と日銀の政策を考えるとききわめて興味深い動きだ。

ともあれ楽観シナリオが現実化していると個人的には「確信」の段階に入ったといっていい。このときに金融緩和政策をさらに採用するかどうか、僕は行うべきだと考えている。それについてはまた別エントリーを書いて説明していく。