浅田統一郎「「経済学の多様性」をめぐる覚書ーデフレと金融政策に関する特殊日本的な論争に関連させて」『経済学と経済教育の未来』

 日本学術会議が2013年11月に発表した「参照基準」(原案)は、簡単にいうとミクロ・マクロ経済学が経済学の標準とする内容だった。これに対して様々な経済学の立場にたつ人たちや学会などが反発した。その結果、修正案では原案は政治的に「無害化」した内容になった。そのことはいいことだと思う。

 様々な経済学がありそのいずれを選択する「自由」が確保されていると同時に、特に政策論では論理と事実に基づいてどの見解が望ましいのかという検証的論争は大切なことである。しかし論理にも事実にも基づかないトンデモ仮説が跋扈したのが、この10数年のいまも継続している日本の金融政策をめぐるデフレ論争である。浅田さんは概ねこのような問題意識で、日本のデフレ論争の特殊日本的風土を解明している。

 浅田論説では、日本の過去20数年のデフレの状況とその主因に対する「事実」の解明、リフレ派の内実、リフレ派の三命題、デフレ派の三命題(事実矛盾のトンデモ命題)、そして現実を受け入れることができずに、いまでも反リフレ的見解を変更しない専門家たちは、なぜ変更しないのかを「既得権益説」、「既得観念説」などを通じて解明している。

 非常にクリアな論説で、またなぜいまだに「アベノミクスで株価暴落! ハイパーインフレ! インフレ目標を捨てよ!」などと叫ぶ人たちが多いのか、その無責任な言動を冷静に考察することができる一流の論説である。ぜひ一読してほしい。

経済学と経済教育の未来―日本学術会議“参照基準”を超えて

経済学と経済教育の未来―日本学術会議“参照基準”を超えて