明け方、パトリック・モティアノの『暗いブティック通り』(白水社)を読了。ノーベル文学賞を今年受賞した作家だが、個人的には『冬のソナタ』の原作者たちが影響をうけた作家でも記憶。ただし僕の書いた『最後の「冬ソナ」論』(太田出版)のなかには反映されてない。原作者たちの本をなまけて読んでなかった。
『暗いブティック通り』は名作だと思う。主人公の年齢はおそらく僕と大差ない。記憶喪失者が自分とは何者かを探すという設定になってはいるが、読んでいくうちに、そもそも半世紀近く生きてきた人間たちはその誰もが、自分が何者であるかの手がかりを失っている人間だ、ということにも気が付く。
『暗いブティック通り』はロシア革命での亡命貴族、戦時下フランスでの異国人、亡命者など「国家」というアイデンティティを喪失した人たちの陰影が幾層にも視界をふと横切るような形でスケッチされていく。『冬のソナタ』にも自己同一性の喪失とその選択とがテーマにあるが「亡国」的なテーゼはない。
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