経常収支が赤字で何が困るの?

 困らないよ(笑)。この「経常収支(貿易収支の場合もあり)が赤字だと日本は何で稼ぐか」とか「経常収支が赤字だと海外に国債を買ってもらう必要がでてきて、その場合には急激な資本流出が起きると国債破綻、日本経済危機になるよ!」と警告をならすものまで、本当にここ1、2か月で急に声だかに言われている感じだ。もちろんこのような珍説が普及するときは、だいたい裏に官僚ありきである。それが日本のマスコミやいわゆるメディア受けする論者のソースであることは多くの人たちもそろそろ気が付いているはずだ。そして今回もまた消費税増税が経済を減速させる可能性が高いために、その「原因隠し」で行われている可能性も否定できない。これは陰謀論でもなんでもない。単純な「官僚の性からくるお仕事」の変種でしかない。

 この点については高橋洋一さんがすでに嗅覚するどく指摘している。

高橋洋一:「経常収支赤字で日本経済が危ない」は俗説!マスコミ報道に騙されるな
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38394

筆者は、貿易収支または経常収支が赤字になると危ないなどと、経済学に素人のマスコミがはやし立てるのはそれほど心配していないが、わかっている人までが言い出した。これには何かウラがあるのかと考えてしまう。

「経常赤字になると危ない」説は素人受けするし、真偽は別としても、官僚の政策遂行には使えることがある。例えば、原発再稼働だ。原発再稼働して、少しでも経常赤字にならないようにしたいといえば、数字を上げるとくだらない話でも、マスコミを騙すには十分だ。

さらに、消費税増税で景気の腰折れが懸念されるが、それも消費税増税以外の要因に責任転嫁できる。

さて高橋論説でも「経常収支の黒字がよくて、赤字が悪い」という説の陳腐さと、また正しい理論的な見方、簡単な実例と実証があげられている。

なぜアベノミクス以降で経常収支の赤字が持続するのか? この問題については、以下の安達誠司さんの解説と片岡剛士さんの論説が参考になる(高橋論説にもこの点の解説がある)。

安達誠司:日本の経常収支黒字急減は日本の競争力低下の証か?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38499

結論だけ引用すると

日本の経常収支黒字の急減、及び貿易収支赤字の拡大は、日本の製造業がグローバル競争に敗れつつあるために起こっている訳でもなく、原発再稼働が実現しないことによる燃料輸入の急増によるものでもない。

日本を除く世界経済の回復ペースが緩やかである一方、アベノミクスによる日本の内需の回復ペースが早い、という回復ペースの「非対称性」から生じた現象であると考えた方がよいのではないか

片岡剛士:貿易収支赤字拡大はなぜ生じているのか?
http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka/column/kataoka140226

ポイントは
1:経常収支の黒字幅が減少したのは、貿易収支赤字が拡大しているため。貿易収支赤字が拡大しているのは、輸入額の増加が輸出額の増加を上回ったため。

2:2013年の輸出「量」の動きが緩慢。輸出「額」・輸入「額」の変化ともに価格の変化が大部分

3:貿易収支には国内外の景気要因が大きく寄与している。ここ1年以上の円安傾向はリーマンショック以降の円高の制約を解消していてこれからの輸出企業に貢献する可能性があるだろう。

実際の分析はかなり専門的で詳細であるので、落ち着いて読まれることを。

 また初歩的な理論、国際収支表の解説などは上記の三人の論説に書かれている。また教科書的な解説を求める人は岩田規久男『国際金融入門 第二版』か藪下史郎他編著『入門経済学』第三版の第13章を読むことをおすすめする。