高橋洋一『「借金1000兆円」に騙されるな!』

 日本の国民の多くは官僚や政治家、そして多くはマスコミの誘導で「日本の借金は1000兆円で一人当たりがほぼ700万円、第二のギリシャになって財政破綻に陥っている! これを回避するために消費税を増税して次世代に負担を負わせない」と信じこませられている。

 高橋さんの新作は、そのような妄念にしっかりとした理論と事実の積み重ねで明白にノーをつきつけていて読後に爽快感もおぼえる快著だ。まず多くの財政破綻論者が、財政破綻によって国債暴落を説くが、いったいそのときの「暴落」はなんなのか定義が不明であること、またそもそもの「財政破綻」の定義も不明である、ことを指摘する。あやふやなイメージだけが先行している日本の「財政破綻」議論にまずは疑問を投じる。

 その上で高橋さんは、ラインハートとロゴフの『国家は破たんする』から援用して、とりあえず「財政破綻」を、対外債務、国内債務、外貨建て、自国通貨建てに関係なく、元利の支払いが滞れば財政破綻になる。かつ、自国通貨建ての場合で支払スケジュールは守られていても、20%以上のインフレでは債務の負担は実質的に軽減されているので、事実上の財政破綻とみなす、とする。

 そしてこの定義からもわかるように、外国人保有比率が破綻確率に関係ないことと、自国通貨建てかどうかも破たんと関係ないことが示されている。また僕もしばしば聞くが経常赤字と黒字も財政破綻と関係がないことが実証的に示されている。

 で、何が重要か。それは経済が一定の名目経済成長率を保つことだ。もっと簡単にいえば景気がよくなること。それがほぼすべてだといっていい。景気がよくなると銀行がつぶれるだとか、国債が暴落するとか、そういう議論もただに愚論として本書ではきちんと論駁されている。そしていま増税すればかならず日本の成長率に悪影響を及ぼし、それがかえって財政再建を遅らすことにも1章以上割いて論究している。

 また日本の借金1000兆円という数字も、日本の保有する膨大な資産(この流動性の大小についても丁寧に説明している)の側面を忘却し、ほとんどの諸外国が事実上の純債務を問題にしているのに、日本だけはなぜかグロスの債務だけが官僚から声だかにいわれている実情を説明している。

 そして財務省官僚たちがなぜ消費税の税率をあげることにこだわるのか、それが天下り先の温存であったり、または権限の確保、そして消費税の特例をうけようとするマスコミなどとの『共謀」的側面にも注意を促している。

 印象論でしか財政破綻を語れない人はぜひ本書を読むべきである。枚数もあまりなく、廉価。すぐ読める。

「借金1000兆円」に騙されるな! (小学館101新書)

「借金1000兆円」に騙されるな! (小学館101新書)