高橋洋一『消費増税でどうなる? 日本経済の真相 2014年版』

 相変わらずの軽快で論理的な経済問題への解説です。道州制のところだけ毎度のことだけどいまいちわからないんですが、それはさておき、以下に自分のメモ書きとして。もちろん他の論点の方が多いし、僕も同じ立場なところはいちいち書かない。あくまでも自分のメモです。気になった人はぜひ本書を読みましょう。

1)消費増税は「財務官僚の歳出権を拡大するための措置」で、消費税増税財政再建にまわすことはない。実際に一般会計概算要求の総額は100兆近くまで規模拡大。問題なのはこの勢いがとまらない可能性があること。消費税増税の対策という名目で今後の10%に引き上げる時に膨張する可能性が大きい。消費税増税をやめればいいが、それができないのは高橋さんの指摘通りに財務官僚の権原やそれにたかることがメリットな政治家らが多いからだろう。

2)「消費税増税対策の法人税減税も理解できない。ただの軽減税率の適用と同じで消費者を損させて一部の企業が得するだけ」ただし法人税そのものはなくすことが望ましい。理由は景気対策ではなく、法人税を課す根拠がないからだ。

3)賃金は大企業だけが上がるのではなく次第に中小企業にも浸透する。政策には時間がかかるが理解されておらず、むしろ現在の金融政策の効果を否定するための道具になっている。

4)円安で海外企業が日本に生産拠点を戻すか否かは、戻るとしても時間がかかるし、そう単純ではない側面もある。だが円安によって所得収支が大きく伸びていることが日本経済にとっていいこと。このメリットはかなり大きい。

5)「貿易赤字が続くと海外からお金を借りなければならずそれが金利上昇など国債不安につながる」というのはまったくデータに裏付けられない暴論。経常収支が黒字でも赤字でも、経済政策運営をきちんとやりそこそこましな成長率を実現できれば金利の異常な高騰はない。

6)今回の本で面白かったのは次の対立点の明示。

防衛費抑制のための「集団的自衛権」を高橋さんは主張。また「特定秘密保護法」も軍事的同盟構築のために必要。「つまり、集団的自衛権特定秘密保護法の裏側には、「国防費」という予算が関係している。本質的には「経済の問題」なのである」(107頁)。
また自由貿易圏や貿易協定と軍事同盟の話も重なる。あたりまえだが、相手と戦争をしない、というのが自由貿易圏や貿易協定の前提ともいえる。

高橋さんは以上から
集団的自衛権特定秘密保護法ーTPPを「経済」という視点から一連にとらえる。

それに対して「TPP反対派には、軍事は一生懸命にやれという人が多いが、出てくる答えは日本の自主独立路線。日米同盟を結ばず、自分たちで国防をしようと言っている。究極的には、TPPを拒否すれば最後はだいたい核武装になる」(109頁)。

 なかなか大胆なまとめですが、ネット保守論壇の一部をみると確かにこの「TPP反対ー反米ー核武装(自主防衛)」という主張は対になってますね。面白い考察です。こちらの組合せの方は、高橋さん流にいえば、キーは「反経済」でしょうね。

(7)漸次的「脱原発」を経済的視点から採用。
 この点については、岩田規久男先生や加藤寛氏、竹森俊平さんら共通の枠組みがありますね。別エントリーの「脱原発」の経済学的解を求めるブックガイドも参照してください。