2013年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラーの金融資本主義についての啓蒙書だ。分厚い本だが、訳が読みやすいこと、文字が大きいこともあってわりと短時間で読める。訳者のひとり、山形浩生さんがあとがきを詳細に書いているのでまず全体を知りたい人は先に読むといい。日本で売れている米国の経済学者クルーグマン、スティグリッツとはかなり色合いの違う発言をしているからだ。例えば金融業界はリーマンショックの原因と断定されることが通説だが、シラーはむしろ「被害者」であるとしている。「被害者」であるならば、リーマンショック後の「救済」では多くの金融商品やサービスの消費者と同じく、その正当な対象になることになろう。
本書では金融業界を就職先に選ぼうと考えている学生をかなり意識して書かれてる。特に前半の金融業界で働く主要プレイアーたちについての記述は正直読むのがつらかった。結論もたいして変わらない。すべてのプレイヤーはそんなに金儲け主義の貪欲な連中ではなく、信頼できる社会性もあり、民主的な価値を重んずる人たちが大勢だよ、というのがその主張だ。例えばCEO(最高経営責任者)の行動を記述するところでは、ストックオプションという報酬制度の欠陥(過剰なリスクテイクの可能性)が指摘されている。これについてはドッド・フランク法での規制(確信犯的なミスには事後的に報酬返還せよ的もの)などが書かれているが、全体としては“そんなに金融市場のプレイヤーを目の敵にしたりしなくてもいいんじゃね”的な姿勢が貫かれている。それが紋切型にも思え、読書をつらくしている。
面白いのは終わりの三分の一からだ。投機バブルのところを扱ったところから個人的には面白い話題が続く。ソ連や大躍進時代の中国そのものが「バブル」である、という指摘は面白い。どこかで最近似た議論を見た気もするが。アニマル・スピリットを兼ね備える人材は偏執狂もどきで、自発的な移民に多い。だから米国はその種の自発的移民が多いので、アニマル・スピリットの資源が豊富だ。株価は個々の銘柄については「効率」的=その銘柄の経済情報を正確に伝えるが、マクロ経済的には「非効率的」だという命題。シラーの別な著作『新しい金融秩序』でも出てきたと思うが、経済格差を解消する手段としての、最新のITを活用した累進的な消費税、累進的所得税や相続税などの設計。金持ちの慈善や寄付こそ金融資本主義の核心なので、それがしやすい制度の設計が重要である、などなど。
小ネタ大ネタ含めて、後半の方が面白いと思う。ただ総じていえることは、あまりいま目前の危機や問題にダイレクトに適用したり、または議論のベースにすることが難しい提言がわりと多いな、という印象だ。シラーの本はわりと毎回そんな感じで読んでいる。
それでも金融はすばらしい: 人類最強の発明で世界の難問を解く。
- 作者: ロバート・J.シラー,Robert J. Shiller,山形浩生,守岡桜
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/12/20
- メディア: 単行本
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