竹森俊平「地球を読む」in読売新聞11月21日より

 近所のファミレスにいったら読売新聞があり、そこで竹森さんが論説を寄稿していた。最近の国際経済の良質の展望になっている。

 まずG20における米国の主導による経常収支の数値目標導入の頓挫の背景を通して、最近の主要国における内向きな政策志向をするどくまとめている。

 例えばドイツ。ギリシャの財政危機を契機に一時期ユーロ圏の崩壊が危惧され、それがユーロ安を招いた。しかしこのユーロ安がドイツ経済の成長率を急速に回復させた。もしマルクだったらマルク高になったから、このユーロのうまみはドイツにとって忘れられない。

 このユーロ安の恩恵は、1)通貨安の景気浮揚効果が大きいこと、2)ドイツは経済危機が去ったと判断し財政緊縮に転換した、というふたつの帰結をまねく。
 
 そこでドイツにとってはユーロ圏の安定のためには、米国の量的緩和政策の大規模な増加は為替レートの不安定性をますので批判すべき対象になる。

 対して米国は、中間選挙の敗北で財政政策の拡大はしばられたので、量的緩和政策の拡大に期待するしかない。この量的緩和政策によって米銀の勘定に流れたドルで、米銀は海外資産を買う。ユーロ資産も買うだろうからこれはユーロ高になりドイツの利害と一一致しない。

 だが竹森さんはどの国にも為替の問題には、日本のようなデフレの国は量的緩和すればいい、そうすれば世界景気浮揚効果も増す。ここはまさに同意するところであり、日本はその金融政策を積極的に使うことで「通貨戦争」に参加することがいいともいえる。

 ではインフレ気味の国は? 新興国は資本輸入規制が考えられる(ブラジルとか)。しかし中国はこれに加えて為替介入も行いドル買い・元売りをしている。これは米国からみれば肯定できない。なぜなら米国が批判している「通貨戦争」とはまさにこの中国の為替介入のことであり、最大の経常収支赤字の対象国である中国が問題の核心だからである。このような米国の政治経済的な姿勢は、中国との政治的摩擦を今後も生み出すであろう。

 先のドイツ+ユーロ圏と米国との対立、日本などの世界同時景気浮揚政策への乗り遅れ、中国と米国との対立、各国の政治的不安定性と内向きな政策の採用など、世界経済の不安定性は増している、というのが竹森さんの指摘である。

 特にドイツと米国との関係が僕にはよく整理されていて使える。こういう分析は竹森さんはきわめてすぐれていると毎回思う。