若田部昌澄「大恐慌は防いだか?ー経済危機後の日本・世界経済を展望する」『経済倶楽部講演録』6月号

 Twitterに書いてしまうとブログに情報を載せ忘れることがあるんですが、ブログもまめにちゃんと記録しておかないといけないw。その書き忘れの代表的なものは、『経済倶楽部講演録』の若田部昌澄さんのこの世界経済一周の講演録。一般には入手できないのが残念である。

 経済学の三つの基本ー景気安定化、経済成長・経済発展、所得再分配の観点から世界経済を展望している。いくつかの新しい経済学的貢献を示唆しながら知的な刺激も満載なところはさすがである。例えば、経済成長・経済発展に関連して、最近話題のアセモルグ&ロビンソンの『Why Nations fail』の主張を紹介して、経済成長のキーであるイノベーションはその国の制度によって拘束する。そして一国の制度のキーは、その制度を管理しているエリートたちが「包摂型」か「収奪型」かで大きく分けられる。このエリートの態様によって大きくその国の経済発展の成果が決まる。このアセモグルらの業績はまた機会を設けて紹介したい。

 08年の世界経済危機以後の状況で、中国の台頭や世界銀行の人事の動きなどに世界経済の変容をみる。

 さらに世界経済危機の現段階の総括は、29年の世界恐慌並みの衝撃をなんとか先進国経済の連携を含めてなんとか防いだ。しかしそれ以前の状態に戻っておらず、またユーロ危機など新たな火種を残したまま停滞が継続している、というものだと思う。

まず米国の状況

1 鉱業生産指数の落ち込みは、大恐慌の方が長く深い。今回の経済危機は1年ほどで底を打つ。
2 貿易額の落ち込みは今回は大恐慌以上。
3 米国の株式市場も急激に低下した。現在は回復。
4 米国の金融ストレス指数はなんとか危機以前の回復。だが不安もある
5 問題は雇用。

この雇用の問題の根源は、若田部さんによれば名目GDPのトレンド線を現在も下回っていること。

 そしてユーロの状況である。若田部さんは四つユーロ圏の選択肢をあげている。
1 ユーロ全域のリフレーション政策
2 ギリシャ、スペイン、イタリア、ポルトガルなどにデフレ政策を行う。緊縮財政、賃金カットなど
3 ギリシャのユーロ離脱 新通貨導入が問題。
4 ヨーロッパ合衆国。政治的統合。

若田部さんはロゴフらの『国家は破産する』を利用して、インフレ目標を4〜6%にすることを提唱。

 中国はハードランディングはないと考える。ただし今後の中国のキーは、先ほどのアセモルグとロビンソンの本では、中国経済が本格的な開放経済をみるには、エリートが包摂型になるかどうか。ちなみに包摂型と収奪型はぞれぞれ経済合理的なので別に前者が利他主義、後者が利己主義的ではない。

 そして日本については、日銀の2月の金融緩和、いわゆるインメドが義理チョコで終わったということで、日本だけでなく世界経済が日本化しないことを警鐘している。

 この講演録はとてもいいので一般でも簡単に手に入ればいいな、と思う。

参考:経済倶楽部講演録のホームページhttp://www.keizaiclub.or.jp/kouenroku/

Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty

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