古市憲寿とネットの愉快な仲間たち:日本とイギリスの若年失業問題

 エントリーに特別な意味はないです。なんとなくつけただけ。

 僕にとっての古市憲寿という人物は以下のTogetterで要約されてます。

http://togetter.com/li/326427

 感想はただ一言、考えが浅いな、という印象論。それ以上のことは上のやりとりからは言えない感じ。

 で、今朝、知人たちが話題にしていた、NHKの「ニッポンのジレンマ」での古市氏への批判大会を読んでてちょっと面白いやりとりだったなと思った。主な登場人物は、常見陽平さんとMay Romaさん、古市氏。

http://togetter.com/li/365766

 具体的な内容をみておこう。May Romaさんの指摘

@poe1985 古市さん、大陸欧州やイギリスの若い人の就職についてテレビなどで語っておられますが、実態との乖離がありますので現場を見てから語って頂きたいです。日本の若い人が勘違いします。多くの若い人は仕事がなく厳しい状況です。留学やインターンは裕福な家の子供でないと無理です.
@poe1985 大陸欧州やイギリスで30近くまでフラフラするようなのは、恵まれ人です。大半は違います。仕事がないから仕方なくです。新卒一括採用はありませんから経験者しか雇われません。従ってインターンで経験を買うことができない若い人は無職や非正規雇用。失業率は日本より厳しいです。.
@poe1985 古市さんは学者ですから、欧州やイギリスの学者や社会学などできる余裕のある家庭出身の方とのお付き合いしかないのではないですか。そういう人は大変恵まれた階層です。日本以上の階級社会ですから。恵まれた階級のことを欧州一杯と語るのはお辞め下さい。誤解を生みます

とりあえずイギリスの若年層の失業率の日本語で読めるレポートを紹介

若年失業者の雇用に助成金など―新たな若者向け就業支援策 

若年層の雇用状況も、前月に100万人を突破して80年代以来の高水準に達しており、以降も悪化が続いている。16−24歳層の失業者数は102万7000人、失業率も前期から1.2ポイント増の22.0%となり、長期失業者(12カ月以上)は不況前の水準の2倍以上に増加した。なお、前後して教育省が発表した16-24歳層の「ニート」(教育訓練も受けておらず就業もしていない者。失業者を含む)も、2011年第3四半期には調査開始以降で最高の116万人に達している。

以下の図表もこのレポートからの引用。

日本の方は最新のデータでは、15〜24歳の男女計の完全失業率は8.2%であり、全体の完全失業率の約倍近い。人数は44万人。

ニート」については、日本では60万人台で推移。ただし定義が日英では違う。イギリスはまず年齢階層が16-24歳、日本は15-34歳。日本の場合は、省庁によって定義が違ったり、類似の概念との区別が煩雑だが、以下のサイトはかなりよくまとめているので参考に。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3450.html

 厚労省の日本の若年層の雇用まとめ

http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/12.html

 一概に単純比較はできないが、少なくとも数量的なレベルでは、日本よりイギリスの方が若年層の雇用環境は「深刻」である。

古市氏のこの発言
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@May_Roma たとえば同じ尺や同じ文字数でどう「欧州の実態を正しく」伝えたらいいか教えて頂けますか。たとえば欧州の失業率の高さは職業訓練社会保障の手厚さの裏返しでもあると思うので(日本のような「全部雇用」ではない)、それを一概に「悪」とも言えないと思うのですが。

この発言に対するMay Romaさんの応答

失業率が高いのは仕事がないからです…職業訓練や手当は手厚くないですよ…日本の方が良いです…

職業訓練については当面おいといて、社会保障の手厚さについてだが、これも国際比較はかなり面倒な作業。埋橋孝文氏の業績が知られている。

片岡剛士さんのパワポ資料の8,9枚目にその成果がまとめられているが、公的扶助の総額ではイギリスの方が日本より上、ただし一人当たりで換算すると日本の方がイギリスより上。さらにこれを購買力平価で換算したものにすると日本の方(先進国中位の10位)とイギリス(先進国の下位グループ17位)で乖離はさらに広がる。

参照:埋橋孝文「公的扶助制度の国際比較」
また数値はないが単なる制度の比較はこの厚労省のまとめなども参照。

 上の厚労省の比較の図でもわかるが、日本の場合、生活保護制度に日本の貧困問題(若年層含めて)のほぼすべてがのしかかっている総受け状態。そこがイギリスとかなり異なることに注意。

 以上から、社会保障制度が手厚いから失業率が高い、という古市命題はそれほどは支持されない、ように思う*1。またMay Romaさんの指摘のように最近のイギリスの若年失業率の上昇は、リーマンショックによる景況の一段の悪化がかなり貢献している。つまり仕事がないのだ。それに対して古市氏は、よくマスコミのジャーゴンと化しているような、こーぞー的な要因しか見ていないように思う(それもどうも上に書いたようにあまり妥当とはいえない)。

そこが、May Romaさんの古市氏への感想レベルにつながるのだろう。
「全然尖ってないし、新しくもない気が…」。

*1:ちなみに日英だけではなく、他の先進国で社会保障制度が日本より厚く、さらに若年失業率が高い国、90年代ではスウェーデンなども存在する。しかしスウェーデンのこの高い失業率はゼロ年代前半に積極的な景気刺激策で急減少した。つまり制度や規制などの構造的要因ではなく不況の長期放置が主因であった