岩田正美「生活保護を縮小すれば、本当にそれで済むのか?」in『現代思想 特集 生活保護のリアル』

  『現代思想』が総力をあげて取り組んだ印象の強い生活保護問題についての特集を飾る力作論説である。政治的な扇動で始まった今回の生活保護制度パッシングへの詳細な反論が展開されている。

 その主張はかなり鮮明である。

 現在の生活保護パッシングの背景には、若くて働くことが可能な「稼動可能層」が生活保護を急速に受給するようになった。働くことが可能な人たちが安易に生活保護に依存するのは「恥」というモラルが衰退した証拠であり、それに連動して扶養可能な親族がいるのに「不正」に受給する人たち、外国人、暴力団などへの支給が大挙してみられるという「通念」である。

 この「通念」の多くがデータで間違いであることは今日の別のエントリーで書いたのでそれを参照すべきだが、岩田氏の論説は、そもそもいまの生活保護制度が、日本の貧困の事実上「オールマイティ」の引き受け手になってしまっていることに、今後の日本の社会保障の危機が存在している、という強い問題意識に裏付けられている。

 例えば、岩田氏は詳細にデータを確かめることで

1 「稼働層」からは景況の悪化、つまり失業によって受給開始者が増えていることは事実

2 しかしそれ以上に基本的な生活保護の受給者増加は、70歳以上の高齢者の受給増によって特徴づけられる

「近年の保護人員の増大は、いわれているほど若年の「稼働層」の増加によるもではなく、高齢化による影響がまず基調にあり、ここに中高年「稼働層」の疾病、失業や収入減による保護開始、あるいは離死別の影響が重なっていると判断できる」60頁。

 この点は岩田論文が詳細にデータを読み込んでいるので同誌を参照すべきである。

1が景気改善で低下しても、2の問題は依然として今後の日本の貧困の核心でありつづけ、それを生活保護制度だけですべて対応するのは困難である、というものである。もちろん今回のような生活保護パッシングは、一部の問題を過剰に拡大して全体の問題をみない悪質な動きであると岩田氏も断定しているだろう。

 この高齢化に伴う貧困の加速化への対応として、岩田氏は以下のように「少なくとも生活保護制度の生活扶助部分のレベルと同等の最低保証年金が存在してもおかしくない。そうなれば、全生活保護人員の約四割を占める65歳以上高齢者の生活保障は、生活保護+年金ではなく、年金によって基礎づけられることになり、生活保護制度それ自体の性格がもっと短期的な貧困に対応するものとなろう。ただし、賃貸借住宅層への住宅扶助と何らかの医療扶助の継続は必要になる」、とし最後の住宅扶助は単給化することで、高齢層、稼働年齢層、離別後の母子世帯に対してもきわめて有効である、と主張している。

 つまりな社会扶助の多様化が求められるのであり、生活保護パッシングとはまったく異なる位相での問題への取り組みが求められるのである。

現代思想2012年9月号 特集=生活保護のリアル

現代思想2012年9月号 特集=生活保護のリアル