生活保護問題対策全国会議編『間違いだらけの生活保護バッシング』

 河本準一氏の母親の生活保護受給が政治家やマスコミ、そしてネットでも厳しいバッシングをまねいた。僕は知らなかったのだが、テレビでは生活保護受給者を見張れ、みたいな番組もあったのだろうか?

 本書はこの一連のバッシングへの丁寧な反論を用意している。生活保護バッシングする人たちの多くは、生活保護制度そのものの意義や、またその基礎になる思想(生存権)には無関心な人が多いだろう。それはTwitterなどでふれる経験からもわかる。なのでこの読みやすい小冊子がそういうバッシングする人たちにうまく届くかどうかはわからない。

 ネットでもこの編者となる団体のホームページはあり、本書の核になる部分はQ&A形式でも読むことができる。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-category-2.html

 例えば本書では、今回の一連の報道の特徴を、1)民法上の扶養義務がどんなものであり、それがなぜ生活保護制度で保護の要件にされてないかの理解がなく、河本氏の道義問題を「不正受給」の問題にすりかえている、とする。これは正しい指摘だろう。2)「不正受給」は金額ベースで全体の0.4%であること、また捕捉率がきわめて低い状況(2〜3割)であるのに、生活保護制度自体に依存する「正直者がバカを見る」状況が一般化している、という感情的な議論の横行だ。

 本書ではもともとこのバッシングを主導した世耕弘成議員、片山さつき議員が自民党の「生活保護に関するプロジェクトチーム」の座長とメンバーであり、今年の4月の生活保護給付水準10%削減などの提案をうけての政治的なアクションであったこと、そしてこの自民党の行動に首相、厚労大臣など政権与党も即応したことを指摘する。いわば政治的な生贄として、一部の道義的問題が、制度そのものの「財政緊縮」のたねに利用されたというわけである。

 本書は生活保護制度のまずは標準的な知識を与えようと構成されていて、その狙いはだいたいは達成していると思う。もちろん経済学的な観点からは物足りなさもある。特に最低賃金制度との関連などだ。ここらへんは論点として残るだろうし、現状の生活保護制度の捕捉率がなぜ低いのか、それは裏返しでいえば日本にはワーキングプアが多いこと、また「貧困」という概念の練り直しが必要であることも意味していると思う。それは先日紹介した『現代思想』の一連の論考やまたいくつかの専門論文を読んでいかなくてはいけないだろう。