藤田孝典『下流老人』

 老人の下流化、貧困化が注目を集めている。日本の経済格差の進展で高齢化が大きな要因であることは90年代から指摘されてきた。NHKの特集番組などでこの老人の貧困問題(一部の絶対的貧困を含むが、多くは相対的貧困の問題)が話題になっている。本書もこの老人の貧困問題についてするどい問題提起を行っている。個別の論点では異論や違う見方もあるが、総じて勉強になる。住宅政策、生活保護の社会的な理解が重要。老齢化で高まる「予期せざる」リスクへの対応も重要だということ。

 著者の経験をいくつかの典型例に落とし込んで解説に利用しているため非常に具体的なイメージを読者に与えることに成功している。特に貧困ビジネスとしての「無料低額宿泊所」の悪用や、住居コストが生活保護政策の妨げになっている実状がよく理解できる。

 本書では国民がそもそも社会保障制度とはなにか。生活保護はなにかなどをきちんと理解し、またいくつかのセーフティネットの存在の周知と理解が必要であることも唱えている。実際例もあり参考になる。また他者との接点をつくることの大切さはやはり示唆的である。ネットでもある程度代替できるかもしれない。

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下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

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