『日本の「失われた20年」』(藤原書店)で手堅い実証と周到な論理で、日本の長期停滞を明快に分析したエコノミスト片岡さんの待望の第二作です。本書の目的は、「為替レートの動向と日本経済への影響、さらに政府および日本銀行の政策対応を分析することで、日本経済を苦しめているデフレと、デフレを原因とする「過度な円高」をどうしたら避けることができるのかを論じ」るものです。
現在の円高と日本経済の関連、そもそも為替レートとは何か、また国際通貨制度の変遷とその中における日本経済が実に丁寧に解説されています。しかも初歩的な知識をおさえながら最先端の話題までいっきにすすんでいく筆致の冴えもあいかわらずです。また本書では重要ポイントを何度も繰り返し整理することで読者がどこに自分がいるのかを意識することができる丁寧なつくりで、編集者と筆者の間の努力が実を結んでいます。
本書の内容の一部分を以下にメモ書き程度に書いてみます。本書の冒頭では解明すべき現在の日本の為替レートにかかわる6つの論点が整理されていて、以下の諸点とも有機的に関連されています。僕のは自分用のメモみたいなものですので詳細はぜひ本書にあたられてください。
・為替レートは、ある国とある国との通貨の比率であり、多くの国は変動相場制を採用している。為替レートの変化には長期的には自国と他国の物価上昇率、短中期的には名目金利、予想物価上昇率の3つの要素が影響を与える。そして名目金利、予想物価上昇率に中央銀行は影響を与えることができる。
・日本の円高は深刻。実質実効為替レートの動向から円高は深刻ではない、という議論をするむきがあるが、それは相手国に比して、日本が物価上昇率が低いこと(すなわちデフレ)が原因で、円高は深刻。またドル安、ユーロ安は海外要因に帰するという意見は正しくない。なぜならグローバル要因は各国でばらつきがあり、日本が特に自国通貨高なのは金融政策のスタンスに左右されている。
第三章では戦前の金本位制から、戦後の固定通貨制度そしてニクソンショック以降の日本経済と為替レートとの関連が実証的に丁寧に検証されている。
以下、その2につづく
円のゆくえを問いなおす―実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)
- 作者: 片岡剛士
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/05
- メディア: 新書
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