ロナルド・I.マッキノン死去。日本のリフレ派に多大なインスピレーションを与えた偉大な経済学者。まだ79歳と高齢者が多い経済学者の中ではまだまだこれからだったのに。残念です。
以下では、日本のデフレ問題とマッキノンの「円高シンドローム」の関係について簡単にふれます。
長期的な円高トレンドとそのトレンドの中での循環的な円安をロナルド=マッキノンと大野健一は、著作『ドルと円』の中で、「円高シンドローム」と名づけた。その概要は以下の通り。
(一) 日本の貿易収支黒字が拡大し始めると、米国サイドの保護主義圧力が高まると共に、米政府高官の円高容認が頻繁に聞かれるようになる。
(二) 日本の金融政策が円高と整合的な国内ファンダメンタルズを作り出すような「引き締め気味」の政策スタンスへと変化する(通貨当局による円高容認スタンスも含まれる)。
(三) 日本の物価が米国の物価に比べ下落し、デフレ的な傾向が強まる。
(四) デフレ傾向を反映して長期的な円高予想が金融市場で支配的になる(循環的に円安局面を迎えることがあるものの、ある水準を越えると反転し、中長期的には円高トレンドを変えることはない)。
マッキノンらは80年代のプラザ合意以後90年代央までの事態を考えてこの円高シンドロームの原因を模索した。それは米国の政治経済的圧力と日本政府・日銀の同調によるものとして整理された。
このマッキノンらの円高シンドロームが、2003年の時点でも継続しているのはなぜか? というのが、安達誠司さんと僕の共著『平成大停滞と昭和恐慌』(2003)の検討した論点だった。すでに米国からの保護貿易的圧力は事実上消滅していた。しかし日本銀行の円高シンドロームを促す政策スタンス(事実上のデフレターゲット的政策スタンス)には変化がなかった、というのが我々の主張のポイントである。
さらに03年以降も「溝口・テーラー介入」(あるいは竹中介入)での一時期の大幅な金融緩和(と円安介入)によって、この円高シンドローム(裏面でのデフレの継続)はやぶられたかにみえた。しかしその後の日銀の大幅な金融緩和から、あまりにも早期の引き締めへの転換で、この円高シンドローム=デフレ継続を最終的に打破することができなかった。今日、自民党などで行われている「出口論議」をみて不安になるのは、早急なデフレ対策の手じまいとなって昔を再現する可能性がないか、このときの経験による。
03年以降のその竹中介入の時期を含めて表した図表は以下に。この図表をみると円高シンドローム=デフレ継続を打破する「必要条件」が、金融政策にあることが明瞭だろう(そのほかの政策は必要条件とはいえない)。
繰り返すが、円高シンドロームの脱却には、金融政策のデフレを許容するスタンスから、デフレ脱却を目指すスタンス(リフレ政策の採用)が必要条件である。このことを我々は「レジーム転換」と名付けたのである。
いままたこの「レジーム転換」の効果が消費税増税によって甚だしくその成果を奪われてしまったことは、片岡剛士さんと僕とのトークイベント動画で詳しく語られているところでもある。ドル円レートだけみると円安は加速している(これは米国の金融政策要因が大きい)が、他方でユーロとのレートは「安定」している。これが今後、デフレ経済に戻ること(その帰結としての円高シンドロームの再点火)があってはならない。
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