篠原尚之IMF副専務理事は「デフレはいい!」と発言

 IMFは最近の国際的な財政緊縮について、国際的な雇用を不安定にするものとして警告を行っている。むしろ経済が不安定な状況の中では財政政策と金融政策の積極的な援用が行われるべきだ、というのがIMFの意見でも主流になっているのではないだろうか。

 その状況の中で、ロイターのニュースによると日本出身の篠原尚之副専務理事は、「現在の円相場は日本の中期的な経済ファンダメンタルズを反映していると指摘、「円の水準は実効実質ベースでは依然として中期的なファンダメンタルズのレンジ内にある」と述べた」という。

円相場は中期的なファンダメンタルズ反映=IMF副専務理事
http://jp.reuters.com/article/forexNews/idJPJAPAN-23297520110922

この種の発言は、現在の日本銀行審議委員の白井さゆり氏も同様な発言をしていて、本ブログでも以下のように批判的に検証している(当時は審議委員候補であった)。

日本銀行審議委員候補の白井さゆり(白井早由里)氏はデフレ支持ではないか?http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20110309#p1

まず日本の実質実効為替レートの動向(以下の図の青線)と対ドル名目為替レートの動向をみてみよう。以下は日本銀行より。

対ドルの名目為替レートとは、いわゆるドルと円との交換レートであり、直近の数字では1ドル76円台である。もちろん日本はユーロ、元、ポンドなど多数の通貨と交換しており、それらの交換をウェイトをつけて再評価しなおしたのが名目実効為替レートである。名目実行為替レートは数値が大きいほど円が諸外国の通貨に対して円高になったことを意味する。

問題の実質実効為替レートとは、日本と諸外国の物価の比率を考慮して名目実効為替レートを修正したものである。この実質実効為替レートも上記の表で示されているが大きい数字をとれば円高である。例えばほかの諸外国がある時点から現在時点までインフレ2%であり、日本がデフレマイナス2%であれば、これを加味すれが日本の実質実効為替レートは、そのある時点から現在時点まで変化しないことになる。

日本は小泉政権中期からのいわゆる「溝口テイラー介入」によってデフレが縮小し、円高傾向が反転して円安に振れたことが図表からもわかる。さらにそれが06年からの日本銀行の緩和政策の中止(ゼロ金利解除、量的緩和の停止)によって終了し、その後はリーマンショックにより円高が一挙に進んだ。このときほぼ同時並行してデフレとデフレ予想も悪化した。

現在の実質実効為替レートはちょうどリーマンショック以降の円高の水準であり、それは深刻な影響を輸出部門や輸入競争部門、そして日本経済全体へ空洞化の加速や若年失業、長期失業の深刻化などで影響を与えている。

先の篠原氏の発言はこのグラフをみて実質実効為替レートが中期のファンダメンタルズのレンジ内にあるということは、諸外国がインフレである中で、ひとりデフレを継続している日本はそれでもいい、といっているに等しくなる。つまり実質実効為替レートがいままでの水準の範囲内に一見とどまっているのは、日本のデフレが際立っているからである。

そしてそのような状態を「ファンダメンタルズ」と言い放つことは、日本のデフレの継続を「ファンダメンタルズ」と表現しているといってもよく、これはデフレはこのままでいい、デフレは自然現象?であるといっているに等しい。

まったくこのような統計の背景をよく考えることなく、デフレを放任する発言がでることは、IMFのように現状の世界経済危機を回避するために積極的な景気刺激策をとる機関の副専務理事としてはあまりにいただけない発言ではないだろうか?

猛省を促す。