三橋貴明・渡邉哲也『緊急対談 大恐慌情報の虚と実』

 チャンネル桜の経済討論番組で同席すると非常にこのおふたりがいると助かる。なぜなら事前にボードを用意して基本的な統計データを見せてくれるからだ。基本的にマクロ経済政策については、リフレーション政策(財政と金融政策を組み合わせてデフレ状態を脱却し低インフレ状態に持っていく)ことに賛同している。また日本経済の潜在的な成長力についても高い評価を与えていることでも僕と共通している。

 特に本書で僕がまさにそうだ、と思ったのが国際的な格付け会社に対する両者の遠慮容赦のない批判だ(44頁から53頁)。僕もこの番組に出たときに、ほとほと格付け会社の評価には呆れて「日本国債の評価をどうか国債ゼータ―(z)にしてくれてかまわないw」と放言したほどである。

 格付け会社への批判の要点は、1)「格付けの嘘」=債権を売る側が格付けのおカネを払っている(格付け恣意性の指摘)、2)政治的ファクター(バフェット要因)、3)国債格付けに、微税権・通貨発行権を考慮対象外で債務/成長だけで判断、4)裏格付けの存在(日本国債の優位ーCDS国債金利から計算?)、5)「将来要素」という恣意的な要素の存在、など。これらは格付け会社批判の起点にしかすぎないだろう。本格的に格付け会社を批判することが重要だし、現行のシステムの解体すら必要ではないかと個人的には思っている。

 ところで本書は2011年から今後にかけての世界経済一周旅行のような趣で世界経済を展望している。これらのついては個々細かいところでは、ぼくはそうなのかなあ、と思うところもあるが、それはまあ、置いといてw 以下にその要点をあげると、

1)ユーロ圏…ギリシャは延命がユーロ圏諸国のマスト。しかしこの弥縫策には限界があり、本格的な解決にはギリシャをユーロから切り離す必要。

2)米国…オバマ政権の維持は失業率次第。政治的意図が強くでてくる年に2012年はなる。

3)中国…過大な投資依存国=バブル経済=成長率8%死守の国。毛沢東思想の拡張。シーレーンの保護と中国軍閥の共産党のコントロール不調整とのからみ、つまり安全保障の困難が課題に。

4)ロシア、ブラジル、インド…日本経済との相互依存の度合いを深化させていく。

5)韓国…極端な輸出依存体質への懐疑・

6)日本…マスコミの「成長できない神話」への批判。TPPへの両者の批判。ねたむ社会構造もデフレの結果。

渡邉:僕は「最小不幸社会」を否定したいですね。最小不幸社会というのは一種のマルクス主義です。…幸せな人がいなくなれば幸せになれるという話になって、どんどん皆貧乏になってしまうんです。
三橋:だから、デフレとすごく親和性が高いんです。

というやりとりは賛成である。

ふたりのいまの日本をリードする経済評論がどのようなものか、私の個人的な収穫としては、その手法がよくわかった。私よりも8歳下であり、その若く鋭気に満ちた手法をこちらも活用させていただくことにしたいw。なぜなら評論活動というのはまた日々の研究と研鑽がマストな世界であり、そこは貪欲に肉食系でいくしかないからである。その意味で本書はとても勉強になった。

大恐慌情報の虚(ウソ)と実(マコト)

大恐慌情報の虚(ウソ)と実(マコト)