上念司「歴史から考える日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ』

 上念さんの独自の「陰謀」論をネタにした経済・社会論である。相変わらずの上念節であり、一緒にトークイベントしたり、いままでの本をすべて読んでいると、その独自の進化を本書でも味わうことができるだろう。

 詳細な中身については、道端カレンさんのブログにまかしたいが、本書では一般社会で流通している、単純でもっともらしいけど、実は問題ありまくりのバイアス(本書では「素朴理論」という)が徹底的に批判されている。

 特に経済的な側面では、設計主義への批判と保守主義との対比が、上念さんの思想のありかを知るうえでも読んでおいたほうがいいだろう。また最新の話題としては、中国人民銀行の反リフレ思想を、日本銀行が利用しようともくろんでいるところ(中国からみれば日本銀行は反FRBなどの対抗勢力として政治的タッグを組める相手にうつるだろう)などが興味深い。中国が日本のデフレ継続でどのような恩恵をうけるのか、この問題についてはこの倉山満さんとの動画や、またこのエントリーを参照のこと。

 本書で一番リアルタイムな話題は、やはり衆院選挙後の情勢だろう。ここらへんの新見解をもっと読めればいいのだが、それでも大枠は書かれている。これは今後のデフレ脱却(リフレ)論争を見るうえでもキーになる。

「幸いにして自民党総裁に選ばれた安倍晋三氏は、「増税反対&日銀法改正」論者として知られています。2013年の夏までに行われる総選挙で自民党が大勝し、第二次安倍内閣が誕生すれば、この亡国プラン(デフレ下での増税…引用者注)の発動を何とかギリギリのところで防ぐことができるかもしれません。……安倍新総裁の党内人事を見る限り、親中派グループは要職で起用されており、その大半は増税論者です。総裁一人が増税に反対しても、多勢に無勢で押し切られる可能性もあります。選挙に勝利して半年もしないうちに「安倍降ろし」といういことになれば、そのリスクが顕在化します。日銀のなし崩し緩和でどん底から少し復活しただけの日本経済を、「バブル再来!」「景気回復!!」などとマスコミが煽り、「もう増税しても大丈夫じゃないの?」という空気を醸成しないとも限りません。またしてもコミンテルンの「スパイ」に騙された「バカ」な人たちは、自滅への大行進を始めてしまうのでしょうか」

ここでの「コミンテルン」は歴史上のコミンテルンではない(そう読めてしまうところは少し問題ではある 笑)。むしろここでの「コミンテルン」とは、デフレを継続することがいいと理解している銀行や国債のマーケット関係者などかもしれない。もちろん日銀や財務省増税派たちだろう。日本の国益よりも自分たちの仕事まわりでしか日本を理解できない硬直的な思想の人たちだ。本書は「陰謀論」をネタに、かなり無茶ぶりな点もあるものの、相変わらずの大胆さで硬直した脳髄を刺激するだろう。

歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ (光文社新書)

歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ (光文社新書)