TPPの「交渉参加」してどうして悪いのだろうか?−高橋洋一TPP合コン仮説in『ニューモデルマガジンX』3月号

 高橋洋一さんと僕と三橋貴明さんとの鼎談を記録した『ニューモデルマガジンX』三月号から引用かねて、ご紹介。ぼくは自由貿易の恩恵はこれからも一貫してあると思う。ただ別にTPPに参加しなければ自由貿易の恩恵を受けられないとも思わないし(あたりまえ)、交渉が必ずしもよく設計されているかどうかも議論すべきだし、またここが重要だがいまの野田政権に国民が信をおくことができるかどうかも重要だとも思っている。

 この最後の点は、僕には決定的に重要に思える。一概に定式化することは不可能なのだが、グレーザー&ローゼンバーグの名著に『成功する政府 失敗する政府』というものがある。

「例えば、市場に基づいた解決策は、指令・統制型規制や、あるいは政府がコントロールする生産のような非効率的な配分方法にとってもっとも有力な代替的手法であり、確かに多くの利点がある。しかし、状況と政策の信頼性の程度によっては、市場に立脚した政策は民間投資を刺激することや、潜在的な請求者の要求を拒否することや、また総費用を抑制することに失敗するかもしれない」

とある。信頼性のある政権と安定的な制度設計の見通しが、いまの野田政権には率直にいって欠けていると僕は思っている。信頼性の毀損は野田政権が属する民主党政権そのものが(誰が頼んだわけでもないが)マニフェストを自ら作成し、それで政権交代を実現したと信じられている中で、見事なほどこのマニフェストを破棄しているのが明らかだからだ。

 僕はマニフェストを実施せよ、といっているのではない。野田政権のマニフェスト破棄という行為自体が、この政権のコミットメントの失敗、つまり信頼性の欠如を表していると思っている。

 さらに、もし自由貿易が長期的な問題ならば、別に焦る必要はない、というのが僕の意見だ。ネットで散見される感情的な議論(例えば韓流好きとかいうだけで批判してくるマインドに似ている)には理はまったくないが、それでも日本は鎖国などというハードな制度を有していない。自由貿易の推進というソフトな制度を有している。この柔軟性ゆえに、いまの国内の既得権層や感情的世論の吸収も時間をかければ、過去そうであったように解消されると楽観的に思っている。

 なので当面のTPP参加を放棄することも、野田政権の下ではかなり真剣に考慮すべきだと思う。もちろん野田政権がこのTPPにかかわる政策の信頼性を上げていく努力をすればいいだろうけど、どうもそんな風にはまったく思えない。いずれにせよ、交渉過程は「注視」すべきだ。

ただしTPPの「交渉」自体を批判するというネットでしばしばみられる感情的な議論にはかなりげんなりしているのも事実だ。この点については以下のように高橋洋一さんの合コン論が正しいと思う。

高:TPPの参加交渉は、はっきり言えば合コンレベルの話ですよ。交渉に参加するかどうかっていうのも、政府の権限。政府の立場としたら全部参加するものだよ。どの段階で抜けるかっていう話はあるけど、とりあえずパーティーがあるわけだからそれにはエントリーするのは当然。パーティーに参加しないと誰が参加するか分からないんだから。
 日本はTPPだけじゃなくて、ASEAN+3や+6の交渉参加もやっているし、日中韓FTA(自由貿易協定)もやってる。参加している合コンがたくさんありすぎるくらいなんだけど、そこでTPPという合コンだけを声高に反対するというのはどうかと思うな。出入り自由の合コンなんだから、気に入らなかったら名刺交換しなければいいだけの話だよ。むしろ、参加してどういう人たちがいるかを見極めてから判断するほうが生産的じゃない?


高:交渉参加は官僚しか実務をやれないでしょう。だから交渉ごとがあれば行くんだよ。私自身も役人時代に交渉参加したことはありますよ。しかも政府としては国会に断りなく交渉に行っちゃう。それはどこの国も同じですよ。だから交渉の場で約束することもないし、最後に参加をやめたということもよくある話。入っちゃうとやめられないなんてウソ。私は実際に交渉参加してからやめたことありますよ。交渉中にとてもじゃないけど国内で法案を通すことができないと思ったら、政治家にあげる前にやめちゃうんです。

高:(略)その時の国民の関心次第だから、結果はわからないけど、国内法にするときにアウトになるよ。官僚はそういう先まで予測しながら交渉する。国内法に落としこめるか議題通過するかどうかで、国内法が成立する可能性がないのに突っ走ってしまうと役人の責任問題になるから、無理だと思ったらやめるよ。
 おそらく、官僚はいまもいろんな交渉ごとに参加していると思うけど、みんな焦ってるんじゃないかな。この合コンは参加しちゃいけなかったのか? みたいな。

 こう書くと交渉の経験もないどこの名無しともしれない人びとが「そんなのはぬるい。国際政治を甘く見ている、交渉に加わればだまされてしまう!」とくる。いったいどんだけ全能感なのだろうか? お手上げである。

 あとまだいろいろ話題を鼎談では話したので、上のコピペだけ読んで全能感を発揮する前に、まともな人はぜひ以下の本体を読むべし。

成功する政府 失敗する政府

成功する政府 失敗する政府