上念司『経済ニュースのウソを見抜け!』

 消費税増税への動き、日本銀行の金融政策への注目、世界経済の動向など、つい数週間前までの話題を本書はおさめていて、その意味では最新の時事的・経済的テーマを知るうえで最適な本である。また上念さんの本をすべて読んできた経験からいうと、本書は日本銀行問題への視点では最も具体的なデータと理論に裏付けられた指摘が続く好著だ。

 また浜矩子氏への批判(脳内ハッピー基準など)や近衛内閣末期のメタファーを利用するなどあいかわらずの上念節も堪能できる。

 第1章は財政破綻問題について。まず日本の借金が本当に多額なのかどうかを国際的な比較や政府のバランスシートを利用して解読し、官僚やマスコミが大げさにさわぐほど多額ではないとする。他方で、財政の維持可能性の道しるべのひとつであるプライマリーバラスがこの20年黒字化していなことの根源は、日本の成長率が低迷しているこ、すなわち本来的な財政再建とは経済の安定に尽きるということがわかりやすく論じられている。そのため現在の経済成長率を低めることに貢献する消費税増税はまさに悪筋な政策の典型(無限増税ループ)であることになる。

 また財務省やマスコミがなぜ消費「税率」のアップに傾き、税収増を目指さないのか。その理由が財務省、マスコミの経済的な利益の奪取にあるのではないか、と上念さんは指摘する。税率を上げることはまた、政府部門に無駄を発生させることでも、税収の落ちこみに寄与するのに加えて、歳出の妥当な削減ができないことでも間違った政策であることになる。

 そして第二章では、そもそも成長率の安定(税収のもと=財政再建の基礎)が損なわれているのは、日本銀行の貨幣供給不足によるデフレの継続にあるという指摘から、また貨幣供給不足が円高を招き産業を疲弊させている事実を明らかにしていきます。特に円高賛美論者(先の浜矩子氏ら)を批判するときの上念さんの冴えはすばらしい。IMFの日本側の出向者やまた民間エコノミスト円高=デフレを日本銀行のせいではないとか、財政再建が先(増税が先)という背景に、それらの人々が財務省出身、日本銀行出身であることなどがさりげなく指摘されていて、そこも妙に納得させます。

 私見ですが、本書は第2章と第三章(日本銀行の政策そのもの、例えばどんな資産、国債を購入しているか仔細チェック)が本書のもっとも重要な貢献で、僕もいろいろ示唆を得ることができました。特に127頁から128頁にかけて、いまの日本銀行が陥っているイデオロギーが制度的なものであることが十分にわかり衝撃的です。

 それはいまの日本銀行法の改正のときに、政府からの手放しの完全な独立ではない、政府と目的を共有するのは当然とその法制度の準備研究会などでは議論されていました。しかし、新制度以後はその趣旨を完全に忘却し、日本銀行が恣意的に目的も政策手段も選んでいいという「完全な独立」を当然視していた、という日本銀行のいまにつながる態度です。これがあるかぎり、本書でも示唆されている通りに、日本銀行法の改正以外にこの集団を変化させることは難しいでしょう。もちろんそれだけでもまだ不足ですが。

 本書は上念さんの本をいままで何冊も読んだことがある人にも新発見が無数にあり、また初めて読む人にはもちろんニュースや新聞にない観点がてんこもりのおいしい一冊です。

全国民必読 経済ニュースのウソを見抜け!

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