岩田・飯田『ゼミナール経済政策入門』は非常に便利な政策論の教科書である。上の小田切本にも関連するし、これからしばしば産業政策や産業組織論の話題が今年は頻繁にこのブログでもでてきそうなので整理のためにほぼ引用的に書かせて頂く。皆さんはぜひお手元にこの本をおかれたい。
産業政策とは何か? 「一国の産業間の資源配分、または特定産業内の産業組織に介入することにより、その国の経済厚生に影響を与えようとする政策」である。ここでの経済厚生は総余剰を指す。
具体的な産業政策として岩田・飯田本は3つの可能性を指摘しているが注目しているのは以下のふたつ
1)外部性の存在を根拠として、幼稚産業保護論や産業育成論など、補助金や税制、貿易などへの介入によって特定の産業の育成を図る政策
2)融資などにおける情報の非対称性問題が深刻な経済活動を、情報提供や補助金・税制優遇により支援する政策
である。このふたつが正当化されるためには市場の失敗が存在しなくてはいけない。本書はその根拠を検討している
産業政策の根拠の批判的検討
その1 動学的規模の経済(経済が時間が経過するほとに生産費用が低下していく状態)の存在は必ずしも産業政策を肯定しない
「動学的規模の経済がある産業では、現時点の技術水準では国内で生産するよりも、輸入した方が費用が安くすむとしても、一時的な国内産業の保護や赤字の補てんにより、その産業を育成すると、学習効果により技術が向上し、将来時点では採算のとれる産業になる可能性があります。この理由から主張されるのが、幼稚産業の製品の輸入規制や税制・補助金による支援です」
しかし現時点で赤字で将来に採算がとれる産業(=立ち上げの費用、セットアップコストが多額)であれば増資や借り入れで対応可能。また政府が民間よりもその産業の動学的規模について情報を知っているケースでこの産業政策を肯定しようという意見もある。しかしそれならば政府がその情報を公開すればいいだけである。また情報の非対称性からセットアップコストを資本市場から十分に調達できない可能性がある。しかしこのときも貿易規制ではなく利子補給や公的融資があればいい。ところが公的な融資もそもそも政府サイドが民間の資金供給主体よりも融資先の情報を優越して把握してういることが公的融資の前提になる。しかしそのような事例は一般的ではない。
その2 時間的な規模の経済に動学的な外部性が存在しても産業政策は正当化されない
「ある企業が初期投資を行って生産を開始し、動学的な規模の経済によって生産技術や知識が向上したときに、それによって生じる利益がその企業のものになるならば、政府が介入する必要はありません。しかし、ある企業の技術・知識の向上に基づく利益が、対価を伴った市場の取引を通じることなく、直接、同業他社や他産業に及びときには、資源配分の効率性基準からみて、自発的は産業の立ち上げは過少になります」
この立ち上げの過少性は社会の経済厚生を損なう可能性があります。このような知識・技術の外部経済の波及効果を重視し、その技術を開発した産業を保護すれば、一国経済全体の厚生が上がる可能性があります。
しかしこのような産業政策も批判的に検討すべきである。例えば発明、考案、意匠、著作物などの知的財産権の領域を確定し、他人や他企業がそれらの知的財産を利用するときにその所有者に対価を払えば、「外部経済が内部化」される。
つまりここでは「産業政策」ではなく、政府がやるべきことは知的財産権を明確に定義して、それを法で守ることである。
なおマーシャルの外部性などの議論は省くので本書を各自読まれたい。
- 作者: 岩田規久男,飯田泰之
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 単行本
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