トランプ政権の移民政策雑感

 トランプ米国大統領の議会演説を聴いて、その移民政策についてtwitterでつぶやいたことをそのままコピペ。正確に論じてないところもあるが、まあ、おおざっぱにはこんなところかと思う。

トランプ大統領の議会演説をきいて、彼のやろうとしている経済政策の全貌がより鮮明。総じて雇用重視のスタンスはかわらない。日本でも海外でも反トランプの言論は、彼の移民政策を批判するのみで、あまりその雇用面への影響を指摘していない。日本でも安倍政権への批判スタンスと同じで嫌悪感情優位だ。

難民と移民(特に外国人労働者の移動)は概念的に区別すべきだが、それがごちゃまぜになるのは、反トランプ言論の特徴だ。いま概念的に外国人労働者の米国への移入だけに話をしぼる。

1)米国と外国の労働市場が完全競争的ならば、海外からの外国人労働者の移入は(本国への送金などが大規模でなければ)両国の経済厚生を増加させる。問題は米国の労働市場は完全競争的(二国間労働市場プライステイカー=小国仮定の採用)ではない、ということ。米国は大国であり、市場は不完全。

2)いま米国が大国である場合は、移民(外国人労働者の移入)を制限することで、米国は経済厚生を改善することが見込める。規制手段は、人数割り当てとなんらかの移民労働者への課税。前者はゲーム論的な枠組みで完全移民禁止がナッシュ均衡になり、後者はそのようにはならない。

3)次に米国の方が外国よりも期待所得が高い市場を考える(労働市場に硬直性があるケース。既存労働者の交渉力の方が強いとか排他的な市場環境だとか規制だとか慣習だとか様々)。この場合は、海外からの移民は米国労働市場に一部は入れるが、多くは「構造的失業」ないしインフォーマルな労働に陥る。

4)さらに動学的な考察をすれば、海外からの移民労働者の多くは未熟練労働者なので、米国の経済がより労働集約的な産業にシフトしていく(ヘクシャーオリーンの応用)可能性が強い。つまり現時点での衰退産業に人的な資源はりつく。ざっくりいうと動学的にはより低い経済成長経路が実現する可能性あり。

ここまではモデルの話を少しだけ米国テイストにして解釈しなおしたもの。では、トランプ大統領の移民政策(雇用重視)はどうこの1)〜4)を応用して評価できるかという事。まずメキシコでの万里の長城建設は、インフラ建設の効果、犯罪抑止などを仮定から無視しておくと、2)から完全移民禁止に至る。

完全移民禁止は、米国と外国の人的資源の世界的配分の効率性を著しく妨害するので下策といえる(犯罪抑止、インフラ建設の経済効果は無視していることをお忘れなく)。つまり2)からトランプ政権は移民労働者に追加の税を賦課するのが望ましい。

3)から、国内市場の硬直性を解消するために、トランプ演説が指摘する労働市場規制緩和は支持することができる面もある。ただし市場の硬直性が既存労働者の「信頼」によってもたらされる場合は、この硬直性がむしろ生産性に貢献している可能性もあり、そのとき規制緩和はマイナスにも作用する。難問。

いま3)の労働市場の硬直性(実質賃金の下方硬直)を前提に考えるとトランプ政権の国内雇用重視の観点からいえば、移民労働者の規制は肯定可能だ。自由な移動は移動してくる人達を含めて米国の雇用面での経済厚生を著しく悪化させる。

簡潔に書けばトランプ大統領の議会演説での(雇用重視の)移民抑制政策は、政策手段さえ間違わなければ、支持できる。特に市場に硬直性があるときは米国・外国双方の経済厚生の比較をすればおそらく全体でも悪化する。その意味でも移民労働者政策は基本支持できる。難民対策、壁建設は別だ。何度も念押。